あなたたちが神と呼んだ

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「本日はご多忙中にもかかわらず、通夜にご弔問頂きまして誠にありがとうございました。ここに生前賜りました……」  母の死を聞きつけた祖母は遠くに住んでいるのにも関わらず、私たちのところまで来てくれて喪主を引き受けてくれた。 お通屋に来てくれたのは、母の職場の代表者と、少しだけ交流のあった近所のかた数名のみだった。親族は私と祖母以外に誰もおらず、実に寂しいお通夜となった。母と深く交流のあった人はおらず、お通夜に来ている人たちもどこか他人事かのような態度だった。誰も母の死を悲しんでなぞいないのだと思うと胸が苦しくなった。 死因は自殺だった。私が母から紹介された職場に面接に行っている間に自殺を図ったようで、帰宅した頃には既に手遅れだった。首吊りだった。賃貸に住んでいるから床に影響がないようにブルーシートや家にある毛布が敷き詰められていて、椅子が転がっていた。その用意周到な自殺に私はショックを受けた。きっと、何日も、もしかすると何ヶ月も前から計画していたことなのかもしれない。母はずっと自分が死ぬ日のことを考えながら、私と接して、最後の誕生日を祝ってくれたのだ。母が亡くなった後も、私が一人で生活できるように仕事まで探してくれていたのだ。私が十八歳になるのを待っていたのだろうか。高校を卒業していたのなら、それを見届けてくれていたのだろうか。  今となってはなにもわからない。お通夜で一人一人、祖母に挨拶して私の元にも来たが顔を上げることすらできなかった。まだ真新しいパンプスの爪先を眺めながら、涙の一つすら流せないでいた。唐突すぎて、受け止める余裕すらなかったのだ。一通り、お通夜が終わると祖母は隣に座ってくれた。 「おばあちゃんね琴子に隠し事してたの。響子はね、あなたが大人になったら死ぬんだって、ずっと昔から言ってたのよ。それが自分の最後の役割だって。あの子、中学生の時から何度も自殺未遂していてね。琴子を妊娠してからは自殺未遂はしなくなったんだけど、それでもやっぱり死にたかったんだろうね。きっと今ごろ天国でのんびり過ごしているよ」 「お母さんは本当に天国に行けたのかな。自殺なんてしたら地獄に堕ちるのが普通じゃないの?」  祖母はしわくちゃの優しい笑顔で私の頭を撫でて抱きしめてくれた。 「死に方一つで第二の人生が決められちゃたまったもんじゃないよ。きっと響子の人生の頑張りを認めて天国に連れて行ってくれたに違いないよ」
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