あなたたちが神と呼んだ

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 私がこの世で一番嫌いな言葉は「偶像崇拝」だ。ありもしないものに、願いをかけて、助けを求めて、懺悔して、都合のいいときだけ頼っている人の姿を見ると、この上なく嫌気が差す。神に期待して、それが叶わなかったときその人たちはどう自分に言い聞かせるのだろう。所詮、神頼みだからと諦めるのだろうか。  それならはなから自分の実力のみを信じて、現実を見て、バカなことは願わずに過ごすのが賢明ではないのか。少なくとも私はそうしている。  現実が残酷なことも知っているのだ。神に救いを求めたところで、いじめは終わらなかった。友達も先生も助けてくれなかった。だから、卒業目近にして私は逃げるしかないと決めて退学した。別の学校に編入するなんて考えてなかった。母も職場でのいじめにより、心を病んでいて到底頼れる状態ではなかった。母も中卒で働いてきたのだから、自分も大丈夫だろうと思ってしまった。最悪、人生のどこかで高卒以上の資格が必要になったときは高卒認定を受ければいいと考えていた。幸い、勉強で手を抜くことはなかったため成績だけは良かった。  きっとなんとかなる。だって私、真面目だから。高校での成績も良かったから。働こうと思えばきっとどこでも雇ってくれるに違いない。そんな自信を持って退学届を提出した。  帰宅すると、母は自室で布団に寝転がっていた。こちらに背を向けているため、起きているかどうかはわからない。 「ねぇ、お母さん。学校中退してきた」  どうせいつものように無反応のまま終わるだろうと思って、そのまま立ち去ろうとした瞬間だった。母が血相を変えて布団から立ち上がった。今までの死んだような表情はどこにもなく、怒りで満ちていた。 「なんで中退なんかしたの! なんのために高校に行かせたと思ってるの! なんでそんな勝手なことをしたのよ! ふざけないで!」  私の両肩を握りしめて叫んだかと思うと、急に力をなくしたかのようにその場に座り込んだ。 「……てきなさい」  なにか、呟いたようだがなんて言ったのか聞き取れず、黙っていた。 「今すぐ取り消してきなさい!」 「絶対に嫌! もうあんな学校戻りたくもないし、あんな奴らと顔を合わせるのも限界なの!」 「学校が勉強する場じゃないわ。社会を学ぶ場所よ。それに耐えられなかったら、いつまで経っても大人になれないわよ」  私のふくらはぎを掴んで、じりじりと爪を食い込ませて握りしめてくる。爪切りすらまともにできなくなった母の爪は尖っていて痛かったが、決してそれを口にはしなかった。ここで私が折れてはいけないと唇を噛み締めた。
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