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だんだんと成長したおれは、自分が歩と結婚できる性別ではないことに気づいた。でも、だからなに?って感じだ。しあわせに暮らせれば、それはすなわち結婚みたいなものだ。
女になりたいと思ったことはないけど、歩の前ではお姫様になりたかった。
絵本の中のお姫様は金髪で、水色のドレスを着ていた。歩の好みがこのお姫様なら、おれだって、これくらいできる。
しかし成長するにつれ、可愛いと言われていた顔は平凡になり、おれは焦った。だから高校生になっていきなり金髪に染めたのだ。ピアスはただ似合うかなと思ってついでに開けた。
親は笑って許し、友人はドン引きし、先生は恐れおののいた。でも勉強だけはできたから文句は言わせなかった。
高校を卒業したら歩に会いに行こう。そう決めていた。
歩の動向はSNSで調べているからわかっている。ちょっとハッキングしてやれば全てのやりとりが見えたし。
たまに彼女がいるみたいだったけど、キリキリ歯を食いしばって我慢した。ふたりが行き違うよう、お互いが送ったメッセージをたまに消したりしたけど。
歩はかっこいいから仕方ない。おれが迎えに行くまでの間だけ、貸してやってるだけだ。
……おれはもう、歩は決して迎えに来ないと分かっていた。それならおれが迎えに行くだけだ。
地元の大学に進学し想像以上に忙しくなっていたおれは、どうやって時間を作り、どうやって理由づけして会いに行こうか悩んでいた。
だから歩が転勤で帰ってくることを知って、飛び上がって喜んでしまった。
嬉しい。もうこれは、迎えに来てくれたと解釈してもいいんじゃない?
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