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「砂川さん、嘘ついたの?」
大通りでタクシーを拾うことが出来ず、まだまだ人が並んでいるタクシー乗り場を通り過ぎ、あの店から歩いて30分掛からない場所にある家。
オフィス街から少し外れた住宅街。
アパートでもマンションでもなく、高いマンションが建ち並ぶ中にある大きな和風の平屋建ての家。
その家の門を普通に開け、家の扉の鍵を普通に開けた砂川さんにそう言った。
“今はもうあの家に住んでないよ。”
数分前にその言葉を言った砂川さんが私を連れてきたのは、3年前まで私を何度も入れてくれていた家だったから。
「場所も外観も同じだけど、此処はもう“あの家”ではないから。」
砂川さんはそんなことを口にして、鍵を開けた扉をゆっくりと開いた。
扉が開かれ目に入ったこの家の中。
砂川さんが鍵を開けた扉の向こう側には私の知らない家の空間が広がっていた。
外観は古くからあるような和風の立派な造り、昔は外観と同じ内観だったこの家。
それが今では鍵を開けた扉から見ただけで今風の新しい内観になっていることが分かった。
でも・・・
「ジャケットを郵送するって言った時、今はもうあの家に住んでないって答えたのに。」
砂川さんから嘘をつかれたことに悲しくなりながらも文句を言った。
「ごめんね。
でも住所が変わったとは言ってないよね。」
「砂川さんやっぱり変わったね。
そういう嘘みたいなこともつくようになったんだ。」
「昔から必要な時は嘘みたいなこともついてたよ。」
「うちの会社に新卒で入社した後の営業時代、全国で5位から3位の成績を2年目にはキープしてた人ですもんね。
砂川さんって口が上手いということを今日初めて知りました。」
そう言った後・・・
「違うか・・・。
砂川さんは昔から口がちゃんと上手い人でした。」
まるで別の家のような内観を眺め泣きそうになりながら口にした。
こんな私が異性として好きになってしまうくらい口が上手かった砂川さんに。
「騙すようなことをしてごめんね。
でもあんなに泣いている女の子を置いていけなかったから。
いや・・・ごめん、そうじゃない。」
鍵を開けた扉から呆然と向こう側を眺め続ける私に砂川さんが続ける。
「俺はあんなに泣いている純ちゃんを置いていけないよ。」
砂川さんがそんなことを言い直して、私の背中をまた優しくだけど押した。
「おいで、純ちゃん。
俺が温かくするから。」
もう既に砂川さんから触られている背中は温かい。
でも、更なる温かさを求めるように私の足は自然と一歩を踏み出した。
とても寒かったからだと思う。
砂川さんのジャケットを羽織っているけれど、私の“女の子”の心は寒いままだった。
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