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会議室の更に奥にある、観葉植物に囲まれている開かれた休憩スペース。
そこの自動販売機で田代が好きな炭酸のジュースを買った。
それから私が飲むホットのミルクティーも。
市販のミルクティーは甘いので飲まないけれど、今は少しでも私自身に甘味を加えたかった。
自動販売機の前にはテーブルや椅子が置かれているのに、私達は自動販売機の横の壁に寄り掛かりながら無言で飲み物を飲んでいく。
いつも煩い田代が黙っている時は田代なりに真剣になっている時。
この無言の時間の後に出てくる田代の言葉はいつも“は?”と思うような言葉なことが多い。
今回はどんな言葉が出てくるのかと思っていると・・・
「俺のこと、男として好きになった?」
やっぱり、“は?”と思うことを言ってきたので大きく笑った。
「バカじゃないの?」
「ビビッたーーーーー!!!!
あとはもうそれしかないだろって思ってたんだよ!!!
あんなに言いにくそうにしてたし!!!」
「今更田代のことを男として好きになるわけないでしょ、何年の付き合いだと思ってるの?」
「もう数えるのも面倒!!
・・・ていうか、お前も間中も酷いだろ!!
俺のことを何だと思ってるんだよ!?」
「幼馴染みのうちの1人?」
「お!それはまだマシな答え!!
間中なんて俺のことを“ソッちゃんの代わり”って答えたぞ?
それは酷すぎね?」
「それは酷いね。」
笑う私の顔を見ることなく田代が普通の声で続けた。
「どうしたんだよ?
今更隠し事なんてするなよ。
お前の代わりと言われるような俺に更なる仕打ちをしてくるなよ。」
「これからもっと酷い仕打ちをするかも。」
「マジで・・・?
あ、間中と付き合った?」
それを言われ・・・
流石の私も苦笑いになる。
「マナリーは私のことを女の子として見てくれるけど、お互いに女だとしても私のことが大好きだもんね。」
「女同士でお前とセックスしたいくらいにな。
それが分かっててよく幼馴染みを続けられるよな。」
「マナリーは私のことを幼馴染みとしても凄く大切に思ってくれてるから。
田代は・・・?」
私も田代の方を見ることなく普通に聞く。
緊張も恥ずかしい気持ちもなく、自然と口から言葉が出てきた。
「幼馴染みのマナリーや私が田代とエッチをしたがったら引く?」
「全然。
お前らに穴があって俺には入れる物があるから“ちょっとやってみるか!”って全然引かない。」
その返事を聞き安心しながら頷いた。
「田代とエッチがしたいんだけど。」
「間中?」
「私。」
「私?」
「私。」
「私って?」
「私は私だよ。園江純愛。」
「純愛って名前すげーよな~。」
「・・・ねぇ、話を逸らさないでよ。」
「いや、だって・・・・え!!!!?
え!!!!!!?
お前、俺とセックスしたいの!!!!?」
「引いてるじゃん!!」
「引いてねーよ!!!」
「そうなの?」
「ドン引きだよ!!!!」
「酷いんだけど!!
さっきと言ってること違うじゃん!!」
「お前からそんなことを言われるとは夢にも思わなかったからよく考えなかったんだよ!!」
「酷い・・・やっぱり言わなきゃ良かった。」
ホットミルクティーを口にしたら甘過ぎて気持ち悪くなってきた。
「まあ・・・お前も30だしな。」
田代の真剣な声が隣から聞こえてきて、またしばらく無言になった。
そして・・・
「真っ暗な部屋でエロい動画を見ながらやるなら出来るかも。」
また“は?”と思うような言葉を言ってきた。
「やっぱり酷いんだけど。
エッチをするからには大切にエッチして欲しいから。」
「大切にって・・・?
電気をつけたままエロい動画も見ずに?」
「電気はどっちでも良いけど、私のことは見て欲しいよ。」
「そんなことをしたらセックスなんて出来ないだろ。」
「何で?」
「何でってお前・・・」
田代が言葉を切った後に炭酸ジュースを一気に飲み込んだ。
それから大きなゲップをして・・・
「お前は男なんだよ!!!!」
昔から言われていることをまた言われた。
田代から言われるそれにはショックも受けずに真顔で答える。
「私は女だよ。」
「性別はな!?
でもお前は男だろ!!!
お前を女だと判別出来る物は股にある穴だけだろ!?」
「胸だって少しは膨らんでる。」
「胸なら俺の方がある!!」
「それは筋肉でしょ?」
「筋肉でも胸にある膨らみだからお前のと同じだよ!!」
「本当に酷いんだけど。
田代は私のことを大切に思ってくれてるって信じてたのに。」
「いや、大切には思ってる!!!
お前のことはすげー好きだし、マジで大切には思ってるよ!!!」
「ちゃんとエッチはしてくれないんでしょ?」
「・・・それは無理だけど、抱いてキスならする!!」
「それはもういい。
私は田代とエッチがしたいの。
ちゃんと大切にして貰いながらするエッチ。」
「だからそれは無理だって!!!
お前は本当は男として生まれてくるはずだったんだぞ!?
腹の中にいた時から“多分男の子”って医者から言われてただろ!?
そんな奴が俺に無理難題をふっかけてくるなよ!!!」
「そっか・・・そうだよね・・・。」
「落ち込んだ・・・?」
「うん、流石に・・・。」
「こんなのいつものことだろ?」
「うん、そうだね。」
「そんな落ち込むなよ。」
「田代がエッチをしてくれたら元気になる。」
「それは他の奴に頼めよ。」
「他に頼める人なんていないよ。
私とエッチが出来る人もいないよ。
大切にしてくれながら私とエッチをしてくれる人なんていないよ。
私の顔も身体も男だし、たぶん穴も他の女の子とは違うかもしれない。」
「マジで?」
「うん、たぶんだけど・・・。
他の女の子と比べようがないからたぶんだけど。」
「それだけは俺が確認してやろうか?」
「そこまでしてくれるならそのままエッチしてよ。」
「それは本当に申し訳ないけど出来ない。
俺の中でお前は男なんだよ。」
田代からのこれにはやっぱりショックは受けなかったけれど、これから私はどうして良いのか分からなくなってしまった。
「俺だけじゃなくて他の男にとってもお前は男に見えるんだろうな。
そうだ!同性愛者の男、俺も一緒に探してやるから。」
「そっか・・・それなら私のことを男として大切にエッチしてくれるね。」
私の心と身体は佐伯さんが大切に仕舞ってくれている。
だから大丈夫・・・。
きっと、大丈夫・・・。
私のことを“人”として好きでいてくれて、私のことを“人”として大切にエッチしてくれるのなら、私はきっと大丈夫・・・。
そう何度も自分に言い聞かせた。
何度も何度も何度も自分に言い聞かせていた時・・・
「純愛ちゃんは女の子だよ。」
低くて落ち着いた男の人の声がした。
その声に恐る恐る自動販売機の向こう側を見た。
そしたら、いた。
砂川さんがいた。
私のことを真っ直ぐと見て、怖いくらい真剣な顔をしている砂川さんがいた。
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