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「ここでしようとしてるの・・・?」
タクシーを強引に降ろされた場所は砂川さんの家の前。
門を開けた砂川さんに乾いた笑い声の後に聞いた。
「そうだけど、ホテルの方が良い?」
「砂川さんはホテルで大丈夫なの?」
「俺は何処でも大丈夫だよ。」
羽鳥さんと婚約している砂川さんがそんな返事をしてくる。
こんな私では例え家に入れたとしてもホテルに入ったとしても変に疑われることなどない。
それは砂川さんが1番知っている。
昔は会社でもあんなに仲が良かったのに、砂川さんと私が男女の仲なのだと思う人は1人もいなかった。
砂川さん自身も思うことはなかった。
あんなに私の穴の中に砂川さんのモノが入っていたのに。
何も濡れることはない、全然気持ち良くないであろう穴だけど、砂川さんのモノを私の穴の中に入れていたのに。
“その時”のことを思い出してしまう。
“その時”の相手である砂川さんは、開いた門の前で私の手を握り締め私の返事を待っている。
「ここまでで良いよ、ありがとう。
可哀想だからっていう理由だとしても“出来る”って言ってくれてありがとう。
ここまで連れてきてくれてありがとう。」
「この先にも進もう。
俺でよければ純愛ちゃんと“普通”にセックスが出来るから。」
「出来ないよ・・・砂川さんは出来ないよ・・・。」
「出来るよ。俺は変わったから。」
「いくら変わったからとはいえ、私のことを家に入れようとしないでよ・・・。
私の穴にも入ってこようとしないでよ・・・。
そんなの“誰か”にとっては優しさではないから・・・。」
羽鳥さんのことを思い浮かべながら俯いた。
外観は変わっていないこの家を見ているのが凄く辛くなってしまったから。
「誰かって誰?純愛ちゃん?」
「違うよ・・・。」
「田代君?」
「何でここで田代?」
「付き合ってるんじゃないの?
ホワイトデーにデートをしていたし、さっきもあんな会話をしていたし。
“普通”のカップルじゃないかもしれないけど、付き合ってはいるんだよね?」
「ちょ・・・っやめてよ、田代とは付き合ってないから。
さっきの田代とのやり取りは、エッチを頼める相手が田代しかいないから頼んだだけ。」
「“田代とは付き合ってない”って、田代君じゃない人と付き合ってるっていうこと?」
「うん・・・。」
“男の人”であり私の命も身体も愛してくれている佐伯さんのことを思い浮かべる。
「誰と・・・?誰と付き合ってるの?」
「それは言えない。」
「その人と・・・その人とセックスをしてるの?
いや・・・その人とセックスが出来なかったから田代君に頼んでたの?
その男も純愛ちゃんとセックスが出来なかった?」
そう聞かれ、また乾いた笑い声が出た。
「ごめんね、思い出しちゃった。
砂川さん“も”私とエッチが出来なかったよね。
私じゃおちんちんが全然大きくならなかったよね。」
「・・・外でおちんちんとか言わないでね。
家の中においで、そしたら何を言っても大丈夫だから。」
「私を家の中に入れて大丈夫なの?
私の性別は女なんだよ?」
昔だったら怖くて聞けなかったようなことを今はちゃんと聞いた。
私の命と身体は佐伯さんがちゃんと大切に仕舞ってくれている。
だから何を聞いてもきっと大丈夫。
「羽鳥さん、大丈夫なの?」
「羽鳥さん?
・・・ああ、“彼女”と俺もホワイトデーにあの店にいたけどデートではないから。
俺も“彼女”と付き合っていないよ。」
「そっか、付き合ってはないよね、羽鳥さんは“付き合う”とかそんなことが出来る家でもなければ人でもないから。
羽鳥さんと砂川さん、婚約してるんでしょ?」
「俺は婚約してないよ。」
「俺“は”って?羽鳥さん“は”婚約してるの?」
「さあ。」
砂川さんは“さあ”で会話を終わらせて、痛いくらい握り締めている私の手を引いた。
「俺は本当に出来るよ。
俺は純愛ちゃんのことを“人”としてじゃなくて“女の子”として好きだから本当に出来るよ。」
砂川さんがそんな嘘をついてくる。
秘密にしなければいけない羽鳥さんとのことだけではなく、私の気持ちを何も知らない砂川さんがそんな酷い嘘までついてくる。
「砂川さんは私のことを“女の子”としては好きじゃないよ・・・。
そんなの全然ないよ・・・。」
「うん、昔はね。」
砂川さんが私の手を強引に引いて門の中に入れてきた。
拒否をしたいのに私の足は踏ん張ることが出来ずに前に進んでしまう。
家の扉の前まで進んでしまった私の手から砂川さんは手を離し、鞄の中からキーケースを取り出し扉の鍵を開けた。
そして、昔とは全然違う家の中が広がる扉をゆっくりと開けた。
「純愛ちゃんとセックスが出来ないそんな男のことなんて俺が忘れさせたい。」
砂川さんのその言葉に“男の人”の佐伯さんの姿が霞んでしまう。
「俺は純愛ちゃんのことが“人”としてじゃなくて“女の子”として好きだよ。
純愛ちゃんとセックスがしたいと思うくらいに好きだよ。」
何度も何度も何度も来たはずの砂川さんの家。
なのに全てが変わった家の中を泣きながら見詰める。
全てが変わったような砂川さんの言葉を聞きながらこんなにも涙が止まらない。
嘘だと分かっているのに、“あの頃”の私がずっと聞きたかったはずのこの言葉を聞いてしまい、どうしても涙が止まらない。
佐伯さんにあげた私の命と身体が砂川さんの嘘でこんなにも震えながら喜んでしまう。
そんな砂川さんが私の背中に優しく手を添えた。
そして私の背中を優しくだけど押してきた。
「俺の所においで、純愛ちゃん。」
砂川さんがそう言って私の背中を押すから、私は前に進んでしまった。
砂川さんにとっては可哀想なだけの私が、砂川さんのトコロへと進んでしまった。
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