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砂川さんに連れてこられたのはリビングではなく寝室。
昔何度も入ったはずのこの部屋。
畳と布団だったはずのこの部屋は、フローリングとベッドになっている。
それもただのベッドではない。
「ダブルベッド・・・。」
思わず声にしてしまうと、砂川さんの困ったように笑う笑い声が私の隣から聞こえた。
「広いからシングルベッド1つだと殺風景で。
祖母の箪笥やドレッサーは処分したんだよね。」
「そうなんだ・・・。」
「その時に“純ちゃん”の物も処分してしまって。
ごめんね、会社に届けに行けば良かった。」
「砂川さんのおばあちゃんの箪笥にもドレッサーにも私の物がいっぱいあったから、あんな物を会社に届けに来られた方が迷惑だよ。」
「うん、それはそうだろうなと思った。
“純ちゃん”の家の住所は知らなかったから送ることも出来なくて・・・。
“純ちゃん”のお兄さんに何度か聞こうとしたんだけど、“純ちゃん”のお兄さんは俺に凄く怒っているから何も聞けなかったんだ。」
「お兄ちゃん?
砂川さんに怒ってるの?」
こんな時にお兄ちゃんが出てきて、それには不思議に思い砂川さんを見上げた。
そしたら、砂川さんは何故か凄く悲しそうな顔で私のことを見下ろしていた。
「“純愛とセックスが出来たなら付き合ってもあげればよかっただろ。
付き合うことも出来ないのにダラダラと3年もセフレを続けて何考えてるんだよ。”
俺が“純ちゃん”のお兄さんに声を掛ける度にそう怒られてしまって、毎回何も言えなくなって。」
「お兄ちゃん、砂川さんにそんなこと言ってたの?
そんなの砂川さんに怒ったって仕方ないのにね。
詳しい話はお兄ちゃんに全然してないから、いつも私の方から砂川さんに連絡をしたりこの家に来ていたことは知らないんだよね。
うちの残念な兄がごめんね?」
「“純ちゃん”のお兄さん・・・」
砂川さんが言葉を切った後に苦しそうに顔を歪めた。
「本当に“残念な兄”だよね・・・。」
私のお兄ちゃんのことを砂川さんまで“残念な兄”と呼んで・・・
私の背中にまた優しく手を添えた。
「“純ちゃん”と同じような顔で痛い所を何度も突かれたよ。」
「痛い所?」
「“どうして純愛と付き合ってあげなかったんだ”って。」
「そんなの・・・そんなの、砂川さんは私のことが女としては好きじゃなかったから・・・。」
「“付き合うつもりもないのにどうして純愛とセックスしたんだ”って。」
「そんなの・・・私がしたがったから・・・。
砂川さんの方から私とエッチをしたがったことなんて1度もない・・・。
いつもいつも私からしかしたことない・・・。
砂川さんはただ私のエッチに付き合ってくれてただけ・・・。」
答えながらこの部屋の中にあるダブルベッドに視線を移した。
砂川さんと数えきれないくらいエッチをした布団も見たくはないけれど、羽鳥さんとエッチをしているであろうこのダブルベッドも見たくないと思いながら。
それでも目が離せないのは・・・
どうしても妄想してしまったから。
砂川さんから羽鳥さんのことを誘いこの部屋に入り、このダブルベッドの上に羽鳥さんを寝かせるトコロを。
そして羽鳥さんの上に覆い被さるトコロを。
そして・・・
そして・・・
羽鳥さんの身体を砂川さんが夢中で求めるトコロを・・・。
私には1度もしてくれなかったことを羽鳥さんにはする砂川さんの姿を妄想してしまう。
私には1度も言葉にしなかったことを羽鳥さんには囁く砂川さんの姿を妄想してしまう。
こんな部屋でこんな会話をされ、嫌でも昔のことを思い出してしまう。
もう思い出したくはないのにやっぱり思い出してしまう。
泣きながらこの部屋の中に立ちダブルベッドを眺め、背中にある砂川さんの大きな手を感じていた。
全然温かくは感じないその手・・・。
「“純愛はお前と付き合っていると思っていたのに。”」
この部屋の中に砂川さんの声が響き、私のこの胸も身体もサッ────────...と凍った。
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