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「“純ちゃん”のお兄さんから聞いて驚いたよ。
俺は“純ちゃん”がそんな風に思っていることを全然知らなくて、全然気付かなくて。
“純ちゃん”は疲れているから俺の所に来て、我慢出来ない性欲があるから俺のモノを欲しがるっていう“純ちゃん”の言葉を鵜呑みにしていたよ。」
昔私が砂川さんについていた嘘を砂川さんの声で言ってくる。
「純ちゃんが本当に思っていることを言ってくれれば良かったのに。
そしたら俺も“純ちゃん”とのことをちゃんと考えたよ?」
そう言われ、泣きながら大きく笑った。
この胸も身体も凍っているのを感じながら。
「砂川さんが言ったんじゃん。
“もう疲れてないなら俺の所に来るのは終わりにする?”って。」
「それは・・・“純ちゃん”が俺と付き合っていると思っていたことを知らなかったから。」
「砂川さんが言ったんじゃん・・・。」
「うん・・・ごめんね。」
「何の謝罪?」
「俺が何も気付いてあげられなくて。」
「違うよ・・・砂川さんが言ったんじゃん。」
「うん、ごめんね。」
「違うよ!!!
砂川さんが言ったんだよ・・・!!
砂川さんが言ってたんだよ・・・!!」
「・・・俺が“純ちゃん”に“付き合おう”みたいなことを言ってたかな。
何か勘違いをさせたのかな、ごめんね。」
ダブルベッドの“砂川さんと羽鳥さん”は私に気付くこともなくエッチを続けていく。
私がこんなにも叫んでいるのに2人で2人だけの世界の中にいる。
「もう、いいよ・・・。
昔のことなんてもういいよ・・・。
もうどうでもいいよ・・・。」
“ちゃんと考える”
その言葉の通り、私が砂川さんにちゃんと確認をしていたら砂川さんは“ちゃんと考える”をしてくれたと思う。
そして私との関係の全てを終わらせていたと思う。
砂川さんは私のことを女としては全然好きではなかった。
私では砂川さんにとっても全然違った。
“付き合う女の子としかセックスはしないよ。”
初めて私が砂川さんに“エッチがしたい”と言った時、砂川さんは困った顔で笑いながらそう答えた。
その言葉により私はもっと砂川さんとエッチがしたくなった。
だって私は砂川さんのことが好きだったから。
私の好きは“人”としての好きではなく、砂川さんのことが“男の人”として好きだと“女の子”の私は思っていた。
私が並べた御託だけではなく嘘により砂川さんは渋々だけど頷き私とエッチをしてくれた。
すんなりにではなく、数日に掛けてだけど砂川さんとエッチをすることが出来た。
それに私は凄く喜んでしまった。
砂川さんと付き合うことが出来たのだと思ってしまった。
よく考えれば分かったのに。
よく思い返した時には分かったのに。
砂川さんから“セフレ”という言葉を最後に聞き、砂川さんとの“それまで”を思い返せば確かにその通りだったのに。
私は全然気付かなかった。
全然分からなかった。
全然気付かずに、全然分からずに、砂川さんとの楽しくて幸せな3年間を過ごしてしまっていた。
「今、俺は“純愛ちゃん”のことが好きだよ。
“女の子”として凄く好きだし、“女の子”として純愛ちゃんと付き合いたいと思ってる。
純愛ちゃんとセックスもしたいと思ってる。」
そんな酷い嘘を砂川さんが言ってくる。
「それ、もう言わないで・・・。」
「言うよ。
純愛ちゃんが今付き合っている男も昔の俺みたいに純愛ちゃんのことを“人”として好きなんでしょ?
今の俺は純愛ちゃんのことが本当に好きだから、言うよ。」
追い討ちを掛けるように続けてくる。
「好きだよ、純愛ちゃん。
俺は純愛ちゃんのことが女の子として好きだよ。
昔の俺のことも昔の俺とのことも忘れてこれからの俺のことだけを見て決めて欲しい。」
ダブルベッドの上、やっぱり私に気付かない“砂川さんと羽鳥さん”はエッチを続けていく。
「その男の所か俺の所か、決めて欲しい。」
ベッドの上の“砂川さん”を眺め続けたまま、流れる氷のような涙を感じながら、聞いた。
「私、そんなに可哀想・・・?」
聞いた私に砂川さんの手が小さくだけど動いた。
「うん、可哀想。」
その答えを聞き、私はスーツのポケットに入れていた砂川さんの家の鍵を手に取り・・・
ベッドの上にいる“砂川さん”に向かって投げ捨てた。
「私は可哀想なんかじゃない。
私の命も身体もちゃんと“彼氏”から愛して貰ってる。
エッチは出来ないけど、ちゃんと愛して貰えてる。
だから私は全然可哀想なんかじゃない。」
険しい顔をしている、私の隣に立つ砂川さんのことを見上げてちゃんと伝えた。
でも・・・
砂川さんが口を開けたのを見た瞬間、逃げた。
私は可哀想な女じゃないけれど、この胸もこの身体もこの涙もあまりにも凍ってしまっていて。
それが冷たすぎてこの場から逃げ出した。
凍っているはずなのに涙が次々と流れていくのを感じながら。
逃げ出したのは砂川さんからではなく、この氷のように冷たい家からだと自分に何度も何度も何度も言い訳をしながら。
この家の扉を開け門の扉も開け、砂川さんのトコロを振り返ることもなく走り続けた。
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