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「出た・・・!!」
「“出た”って何、“出た”って。」
「だってさっきイレギュラーな仕事振られてたじゃん、急ぎのやつ!!
あれどしたの!?」
「今ちゃんと終わらせてきた。」
「こっっっっわ・・・・!!!!
鬼がいない間に・・・と思って園江さんに声を掛けたのに、神出鬼没!!!」
「その発言についてはまた後でいくらでも喧嘩をするから、早くそこを退いて。
そこは私の場所。」
「あのさ~・・・口出しはしたくないけど、程々にしなよ?」
「何事も程々に出来ないようなアナタにだけはそれを言われたくないけど。」
「それは何も言えないやつ・・・。」
福富さんは渋々という感じで立ち上がり、心配そうな顔でトレーを両手に持ち遠くの席まで歩いていった。
その途中で何人もの男の人に話し掛けられていたようだけど、何故か怒っているような姿を見せながら。
「福富さん、良い子だね。」
福富さんのもっと小さくなっていく姿を見ながら口にし、私の目の前に座った佐伯さんの顔を見た。
「姉妹・・・ではないのか、親戚の子なの?」
「親戚に見える?」
無表情の佐伯さんの顔は、トレーにのったうどんの丼から上がってくる湯気に覆われていく。
その湯気がユラユラと動くからか佐伯さんの顔がゆっくりと様々な動きで揺れているようにも見える。
「私の妹に見える?」
そう真剣な顔で聞かれ・・・
「妹にも見えないかな。」
私も真剣な答えを返す。
「佐伯さんの小学生時代みたいな見た目の子だよね?」
真剣に返した私の言葉に佐伯さんは驚いた顔をし、そして大きく笑った。
「小学生時代は・・・っ流石に可哀想・・・っっ!!
あれでもあの子、アレをめちゃくちゃ気にしてるから・・・!!」
「そうなんだ?
私がこんなことを言ってたことは秘密ね?」
「了解です。」
佐伯さんが可愛い笑顔で笑った後、私のざる蕎麦がのったトレーを片手で持ち上げ・・・
空いた所に佐伯さんが頼んだはずのうどんがのったトレーを置いた。
「これ・・・。」
「うどん食べていいよ?
ここのざる蕎麦は不味いって有名だから。
園江課長から、食欲がない時や時間がない時は必ずうどんか蕎麦を食べるって聞いてる。」
「でも、佐伯さんは・・・?」
「私はこれで大丈夫。」
佐伯さんが可愛い顔で笑い、ざる蕎麦をズズッ──────...と口に吸い込んだ。
そしてゆっくりと顔を上げ・・・
まるで“男の人”に見える顔で私のことを見詰めて笑った。
「好きな人と食べるご飯なら、何処で食べても何を食べても凄く美味しいから。」
そんな言葉を聞き、泣きそうになってしまい慌てて佐伯さんが交換してくれたうどんを口にした。
温かいうどんが私の口にも喉にも身体の中にも入っていき、この胸はこんなにも温かくなった。
「昨日はどうだった?
化粧をしていても分かるくらい目は腫れているけど表情も動きも自然で、やっぱりまだまだ経験値が足りない私ではよく分からなかった。」
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