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「これ、俺が一番初めにデザインしたものなんだ」
え?
静かに歩いて近くまで行くと、謙太郎さんもその教会を見上げた。
「あの頃、全然目が出なくて、父の仕事を手伝うことに決めて、この仕事を諦めるためにこの場所にきたんだ」
なんとなく会話から、うっすらと記憶がよみがえる。
「あっ……あの時の?」
一度だけ、泣きそうな表情でこの建物を見上げていた男性がいて、それがすごく切なくて、それでいて美しくて見惚れたことがあった。
そんな私に、振り返った彼が言った言葉。
「この教会は好きですか?」
昔より大人で自信にあふれているが、それはまぎれもなく同じ人物。あの時に会ったのは謙太郎さんだったと気づく。
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