元カレ、動く

3/4
前へ
/59ページ
次へ
賢二side つい先週のことだった。 はじめて、古谷さんからヨガレッスンを受けた翌週、 プライベートの思考の8割以上が古谷さんでいっぱいになっていた時のことだ。 休憩室でコーヒーを飲みながら、上がってきたプレゼン資料のチェックをしていた。 でも、半分以上は、 「洋子は可愛かった。めっちゃ可愛い。 あんなに可愛かったか。 ふと目が合うと、にっこりと笑ってくれる。 めっちゃ可愛い。すぐにでも抱きしめたい。 なんで今まで気付かなかったんだ。」 という思考でいっぱいだった。 「ねぇ、新山君、彼女できた??」 「あ?いや、横田には関係ないだろう。」 1人だと思っていた休憩室に、ふっと横田が現れ、テーブルの反対側に座る。 横田とは学生時代からの知り合いだ。 会社では一線を引いてくれるが、 こうして2人きりになると学生時代のノリで話しかけてきてくれる。 気が置けない仲間の1人だ。 「いーないーな、 私も欲しい~。」 「だから、俺は何も言ってないだろ。」 横田が俺をじっと見てくる。 「洋子ちゃん、洋子ちゃん、洋子ちゃん。」 「おい、なんだよ。」 「顔に書いてあるのよ。」 ひどく真面目な顔で真正面からまっすぐに見つめられた。 俺の顔を指差しながら、 「ほら、ここ、こっちも、あ、こっちも。」 「おいおい。」 虫を払うように、横田の手を払う。 横田がにっこりと笑って、 「うふふふ、あーたり。」 思わず、自分の口元に手をあてて、 これ以上、横田に悟られないように下を向く。 「なんでだ?土曜日、新宿か?」 顔を上げて、横田を問い詰める。 「そんな怖い顔しないでよ。 でも、ふーーーん、土曜日に新宿で会ったわけね。 新宿なんて、誰かに見られてるんじゃないの? 新山君らしくないけど、それほどってことね。」 うんうん、横田が1人で納得している。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

665人が本棚に入れています
本棚に追加