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第54話 バースデイ・イヴ 1
「ええ、なんだそれ。クリスマス・イヴなら聞いたことあるけど」
先々週の金曜日の話だ。僕は鈴木とそんな話をしていた。
「どうせ太一は誕生日、鈴代さんと一緒に過ごす予定でしょ?」
「まあその予定だけど」
連休後半はともかく、前半は僕の誕生日もあるため二人でゆっくり過ごす予定ではあった。母も――あらあら。でも、節度は守るようにね――なんて言いながら父とお出かけの予定を立てていた。
「じゃあ前の日にお祝いくらい伝えに寄らせてよ。長居はしないから」
「お前は信用できないからな……」
「やだなあ。鈴代さんとの間を邪魔するつもりはないよ」
「へぇ、太一の家か。一度行ってみてもいい?」――声を掛けてきたのは山崎。
「や、やめろ山崎。太一の家なんか行ってうっかりゴミ箱を覗いてみろ。見てはいけないモノなんか出てきた日には――」
「出てこねえよ。人んちのゴミ箱漁るな」
田代がくだらないことを言うので釘を刺しておく。
「俺も和美と一緒に寄らせてもらってもいい?」――と相馬。
「いいけど、デートとかしなくていいの?」
「お金のかからない所で楽しそうな場所なんてそうないから。手土産くらい持って行くよ」
「手土産は気にしなくていいけど、どこへ行ってもお金がかかるのはわかるなあ。相馬とノノちゃんなら安心だから気軽に立ち寄ってくれて構わないよ」
相馬はその辺、遠慮がちだからうちに来たことは無かったし、そもそも相馬との付き合いが深くなったのは渚と付き合い始めてからずっと後だったこともあって家に行き来するような付き合いはなかった。
◆◆◆◆◆
「あえーっと、そ、その子は……もも、もしかして祐里の……彼女さん?」
今日は太一の誕生日……の前日。太一とその恋人である鈴代ちゃんの邪魔をしないようにと、祐里の提案で前日にお祝いをしてやろうということになった。太一の家を知らない俺――山崎 光――は祐里と駅で待ち合わせをしていた。
「やだなあ光。僕は誰とも付き合ってないし、彼女もそんなこと言われたら困るよ。ねえ?」
「そうですね。あなたの恋人と思われるなんて心外です」
祐里と一緒に駅で待っていたのはかわいらしい女子。相馬の彼女の野々村さんと同じくらいの背丈だろうか。野々村さんとは違って肩くらいまでのストレートの黒髪。わさわさっとしたスカート。ノースリーブの上からカーディガンを羽織って帽子を被っている。
「この子は鹿住さんといって文芸部の一年なんだよ」
「へえ。なるほど……」
――なるほど。一年の女子なら納得のかわいさ。鹿住ちゃんって苗字にも聞き覚えがある。
ん? でもなんで居る?
今日は祐里と相馬が太一の家に行くと言うので俺も来てみた。
たまには男同士で語り合ったりゲームなりで遊んだりできるかと思ったわけだ。
太一は以前から放課後の付き合いが悪い。鈴代ちゃんと付き合い始めてからはなおさら。相馬は彼女ができる前から女子とばかり遊んでそうな雰囲気だったし、祐里とは仲がいいが料理研究部に入ってからはあまり放課後に遊んでいない。ちなみに今日は田代の奴は行きたくないと言って譲らなかったので置いてきた。
ちょうどいい機会だと思ったのだ。
鈴代ちゃんはまあ太一と夫婦みたいなもんだし、野々村さんは相馬の彼女。鈴代ちゃんだけ女子一人というのもなんだから、野々村さんも居てくれた方がむしろ助かるかもしれない。そして祐里には彼女はいないからと安心していた。
祐里について、太一の家へと向かう。
祐里はいつも微妙になんというか……女っぽさを感じる私服だった。今もジーンズに白のシャツという、まあ言葉だけなら男の普段着と言っても通る格好だけど、ジーンズは八分丈のスキニーっぽいやつだし、少しだけ見えてる脛には脛毛ひとつない。シャツはシルエットが細めで袖や襟のカットが微妙に女物っぽい。体が細いし顔がいいから似合うが、俺が着たら絶対に似合わないやつだ。
対して俺はカーゴパンツになんかわからん英語の書いてあるTシャツ。
普通に普段着だったけど、男友達の家へ遊びに行くには何の問題も無い格好だよね?
◇◇◇◇◇
太一の家へと到着。
古い家をリフォームしたとか言ってたけど、言う程古い建物でもなく敷地もそこそこある。
玄関チャイムを押すと、鈴代ちゃんが迎えてくれる。
学校での制服姿とは違い、全体的に薄手の私服が眩しい。上はレース柄のちょっと透けた服で田代に見せたら絶対ヤバいエロさ。キャミソールみたいな黒系の柄物のワンピースは生地が薄いのか、鈴代ちゃんの体の線を綺麗になぞっててこっちもヤバい。高校生って言うより大学生? いや新妻?
「みんないらっしゃい。どうぞ」
「も、もう完全に太一の奥さんだな」
そう言うと鈴代ちゃんも否定せずに恥ずかしそうに笑う。
太一! 羨ましいぞ!
玄関をくぐると、表と中で全く印象が違っていた。中だけ今風の家の造りになっている。
「鈴代さん、これどうぞ。焼き菓子だから日持ちはするけど、良かったらみんなにも食べてもらって。もちろん、何も入れてないよ」
「あはは、ありがとう」
妙に引きつった笑いの鈴代ちゃんだが――。
「なにそれ。すごいな、女子かよ」
「光も良かったら食べてみてよ」
「ああ、ありがとう」
祐里は女子みたいな笑顔を返してきた……。
やめてくれそんな目で見るな。
「鹿住さんも来てくれてありがとう」
「あ、はい。お世話になったのでお礼に……」
鈴代ちゃんについてお邪魔させてもらう。
入ってすぐ左手がリビングになっていた。
ソファーとローテーブル、テレビがあり、思ったより広い。
「どこでもどうぞ。昔は和室だったんだって。でも、隣と繋げて部屋を広くしたらしいよ。ダイニングとキッチンにもそのまま行けるからお料理とか運ぶとき便利なんだ。その代わり、焼き肉はNGなんだけどね」
「庭があるなら外で焼けばいいんじゃないかな?」
「そうだね。それもいいかも」
鈴代ちゃんは学校で居るときより明らかに生き生きしていた。
俺の問いかけにも、いつもみたく緊張した返しではない。
「他に誰か来てるのかい?」――と祐里。
「うん、七虹香ちゃんに佳苗ちゃん」
「えっ」
「――七虹香ちゃんも来てるんだ。佳苗って誰だっけ――」
――と聞いたところでキッチンから出てくる目つきのきつい女子と目が合った。
「み、三村か……」
三村は目が合う直前まで学校では見せないような柔らかい表情をしていたが、俺と目があった途端、いつもの冷たい表情に変わる。
「んだよ、山崎か」
「だれだれー? 誰が来たの?」
三村のあとについてくる七虹香ちゃん。七虹香ちゃんはちょっと派手めだけど可愛らしい恰好をしている。上はニットだけどすごく粗目で下の薄着が透けて見える。ヤバイ。スカートも短い。タイツを履いていないとヤバい短さ。髪はいつものピンクを混ぜてなくて抑えめの金髪みたいなのを混ぜていたため普段よりは落ち着いている。今日はポニーテールではなく山咲ちゃんみたいなお嬢様な髪型にしていた。
最近、七虹香ちゃんは学校でも近寄りがたさが無くなって男子にも女子にも人気だ。ただ、驚いたのは三村だった。三村はもっといかつい系の私服なものだとばかり思っていたが、鈴代ちゃんとよく似た大人しそうな服装をしていた。いやむしろ透けてる分、鈴代ちゃんの方が派手だ。学校でのイメージと全く違う。
「――山崎に鈴木子かぁ。鈴木子、今日はおめでたい日なんだから悪さするなよぉ?」
「笹島さん、僕も太一のお祝いに来たんだから勘弁してよ」
「そっちは? 鈴木子の妹?」
「いえ、鹿住と申します。文芸部一年です」
「あー、はいはい。フライヤー貰って渚に見とれてた子ね。覚えてる」
「えっ、覚えてるの? 七虹香ちゃんすごい」
「あたし、人の顔を覚えるのは得意なんだ」
「ていうより、どうしてこんな女子が多いの? 鈴代ちゃんじゃなくて太一の誕生日だよね?」
「うん、……そうだね。まだ百合ちゃんもくるけど」
「百合ちゃんってだ……あ、奥村さん!?」
「そう」
「なんで!?!?」
なんで奥村さんが??
太一、女子の友達が多いとは思っていたけど、彼女が居ながらどういうことだよ!
「んー。同士……みたいな」
「鈴代ちゃんは気にならないの? 奥村さんもだけど、三村だっているし」
三村に睨まれる。
三村は美人なんだけれど態度が高圧的なもんだから男子からは引かれている。
今の2-Aの男子の好みの傾向は癒し系女子に偏っているのもある。
「んだよ、私が居たら悪いのかよ」
「百合ちゃんも佳苗ちゃんも私の大事な友達だから大丈夫だよ」
――田代……ああ田代……、俺は何か場違いなところに来ちまったみたいだ。どうして田代は俺の隣に居ないんだ……。
◇◇◇◇◇
「ほら、できたぞー」
俺が放心していると、太一がキッチンの方からでかいフライパンを持って出てくる。
太一はダイニングのテーブルのコルク板の上にフライパンを置く。
「おっ、山崎、来てくれたのか。ありがとう。鹿住さんもありがとう」
「太一、ハッピーバースデイ・イヴ! 17歳おめでとう」
「鈴木もまあ、ありがとな」
「瀬川、おめでとう」
「……瀬川先輩、おめでとうございます……」
「ほらほら、食べたい人は掛けて掛けて。太一のゲロウマパスタ、ゲロうまなんだから」
「言い方! てか何で祝われる側が料理してんだよ」
太一は七虹香ちゃんと付き合い始めてから口が悪くなった。
自然な感じがするから俺は好きだけど。
「さっきから旨そうな匂いがすると思ったら太一が作ってたのかよ」
「ほんとに何でだかなあ。山崎も食えよ」
七虹香ちゃんが食べたことがあるからと遠慮し、三村と俺と祐里、そして鹿住ちゃんが四人掛けのテーブルに着く。七虹香ちゃんは小皿に少し取ると味見している。
「んっん! おいしい!」
「七虹香は立ったまま食うな」
「結局、太一も名前呼びになったんだな」
「いちいち突っかかられるからなあ」
チーズを掛けて俺も食べる。
「んん!」
なんだこれ、確かにうまい。太一の野郎、こんな特技を隠してたなんて。
少し少な目のパスタはあっという間になくなる。
「何これ、めっちゃうまいんだが」
「太一、こんなに料理が得意だったんだね。やっぱり鈴代さんには勿体ないなあ」
鈴代ちゃんがぷんすかと祐里に怒り返す中――。
「ん~~~~~~!」
なんだ今のかわいい声。顔を声の方に向けると三村に睨まれたよ……。
「少し作っただけだから。茹でたらまだ作れるし、お代わり要るならすぐ作れるよ」
こんなうまいものをさらりと作ってお代わりもだと?
「太一……お前イケメンだったのかよ……」
「やだなあ光、君の眼は節穴だったのかい? 太一はいつでもイケメンだよ」
「そうだよ!」
さっきまで言い争ってた二人が声を揃える。
「渚といつも料理してるから慣れただけだって……えっ!? どうしたの鹿住さん?」
「……うぐ…………いいなぁって……」
何か一年の彼女は鼻水をすすって泣いていた。そんなにおいしかったのか!
「――さっきの、私だと思って大事に食べてくださいね……」
「えっ、太一何貰ったの?」
「七虹香、勝手に人のプレゼントを開けようとするな!」
「笹島さん、代わりに僕のお菓子食べていいよ」
「え。鈴木子のお菓子はなんかやだ」
「酷いなあ。鈴代さんだって食べてくれたのに」
「えっ、渚食べたの? 体大丈夫?」
「もう先週の話だよ七虹香ちゃん……」
「普通においしいと思うけどなあ。祐里すごいな」
俺は早速頂いていた。
「太一、それよりあたしにもゲロウマ作ってよ!」
「言い方どうにかしろ!」
「あっ、じゃあお茶淹れるね。鈴木君の焼き菓子食べる人はソファの方に移って。昨日買ってきたお菓子もあるから」
鈴代ちゃんにそう言われて俺と祐里と鹿住ちゃんはソファーへ。
鈴代ちゃんはすぐにお茶を淹れてくれる。
「お茶も昨日買ってきたんだ。よかったらどうぞ」
鈴代ちゃんは鹿住ちゃんにニコリと微笑んでダイニングへ行った。
ダイニングでは鈴代ちゃんと七虹香ちゃん、それから三村が楽し気に話していた。
太一はキッチンだろう。
◇◇◇◇◇
「俺はさあ、男同士でゲームでもしようかと思って来たんだ。けど、太一はすっかりイケメンだし、思った以上に大人びた女子に囲まれてるしでさあ」
「光も太一と遊びたいならそう言えばいいじゃない。太一だって光と遊びたいと思うよ」
「そうかな。何だか場違いな気もするよ」
「太一は光や洋一とはそんな浅い付き合いでもないでしょ。自信持って行きなよ」
「あとさ、プレゼントもちょっと選択ミスったかなって」
「何にしたんだい?」
「いやそれが――」
俺は鹿住ちゃんに聞こえないよう小声で祐里に教えた。
まあ、おススメの同人エロゲのプレゼント用クーポンなんだが……。
「あはは。それは太一も困るだろうね。でも、喜ぶと思うよ」
「そうかあ? リアルでハーレムみたいなやつが?」
ダイニングを見ると、太一が次のパスタを作り終えたようで、料理を囲んで四人が楽しそうにしている。あの三村でさえ可愛らしい笑顔を見せていた。
◇◇◇◇◇
「あっ、百合ちゃん近くまで来たみたいだから迎えに行ってくるね」
鈴代ちゃんが玄関に向かう。
太一も席を立ってキッチンへ向かった。
俺はタイミングを見て会話を抜け、太一を追う。
「太一、ちょっといいか」
「ん? どうした?」
「いや、実はその、さっきのやつ、俺でも作れるかな?」
「簡単だから作れると思うぞ。アルミパンはあった方がいいけど」
「その、教えて貰えない?」
「渡辺さん?」
太一には俺の考えは見透かされていた。
「……そうなんだけどさ……」
「いいよ、じゃあここ立ってニンニク剥いて」
「ニンニクってどうやって剥くんだ? どこまで剥くの?」
「玉ねぎじゃないんだからどこまでもは剥けないよ。お尻のとこ切ってみ」
太一は丁寧に作り方を教えてくれた。
そこまで難しいわけじゃない。ただ、説明もして貰えたけど、どうしてこれがこの味になるのかは謎だった。しばらくソースの作り方を教わっていると――。
「太一くーん。えっとね、百合ちゃんちょっと歩き疲れちゃったみたいなんだ」
「じゃあソファにでも横になって貰って」
「ダメダメ! 男の子も居るんだから。ちょ、ちょっと部屋の方借りるね」
「まあ……いいけどさ」
二人は二階へ上がっていった。太一は訝し気な顔をしていた。
俺もちょっと気になった。何しろ相手は同じ二年だけじゃなく、上級生からも下級生からも注目されている奥村さんだ。彼女がもし俺の部屋になんか来たら、残り香だけでご飯三杯はいける。
「いや、ていうか太一の部屋になんか入れていいのか?」
「僕もちょっとそこは心配なんだけど……」
まあそうだろう。あんな美人に部屋を眺めまわされたくない。
俺だったらエロゲの棚を見られるだけで卒倒してしまいそうだ。
――いや、それはある意味ご褒美かもしれないが、俺の高校生活が終了してしまう。
◇◇◇◇◇
ソースの作り方からパスタの絡め方まで教わり、ダイニングの方へ戻る。
「あれっ? 渚は?」
「んー? 奥村ちゃんと戻ってから上に行ったまんまじゃない?」
三村と話していた七虹香ちゃんが答えた。
「ずっと?」
「ずっと」
太一は二階に上がっていく。
俺もちょっと心配になって階段の辺りまで。
「(ちょっと奥村さんなんでベッドで寝てるんです! 渚と一緒になって!)」
なん……だと……。
奥村さんと鈴代ちゃんの二人が横になったベッドなんて犯罪的ではないか!?
もし俺のベッドがそんなことになったら、俺はその事実だけでベッドで一晩中ハッスルしてしまう自信がある。眩暈がした俺は階段に腰を下ろして休んでいた。
「山崎、どうしたんだ?」
「いやごめん。ちょっと眩暈がして。トイレに行ってくる」
「トイレなら階段の奥を右に行った左手な。洗面所の手前」
「うん、わかった」
◇◇◇◇◇
ふぅ――スッキリした俺は洗面所で手を洗い、ついでに顔を洗った。
ただ、何の気なしに足元を見下ろしてしまったのがマズかった。
足元には小さなゴミ箱があった。
ゴミ箱――確か田代がどうのと言っていたな。
まあ、そんなものがそうそう――。
そこには破かれた小さな四角いアルミ包装が入っていた。
うそだろ……。
どうみてもそれはアレの包装にしか見えない。
そしてここは洗面所でもあるけれど脱衣所でもある。
――つまり風呂でしたってことか!?
風呂に目をやると少しだけ戸が開いている。
そこには誰も居ない、そして何も無いだろう。
それでも俺は覗くのをやめられなかった――。
「なんだこれ」
風呂の床には水を入れてとんでもない大きさに膨らんだアレが口を縛って置いてあった……。
◇◇◇◇◇
「七虹香! お前だろ! 水抜いてゴミも全部持って帰れ!」
太一が七虹香ちゃんを追いかけている。風呂場に妙なものが見えてしまったのだがと太一に相談したところ、このような状態に。
「はいたたたたたたた」
七虹香ちゃんが太一に捕まって、頭をグリグリやられている。仲いいな、お前ら。
「渚! あんたの旦那がDV――」
「あーあー、これは七虹香が悪ぃわ」――と、風呂場を覗いたらしい三村。
「えっ、こんなに大きくなるの?」
「渚はあっち行ってて……」
俺はリビングを漁ってゲームを始める。
ソファに居た鹿住ちゃんが付き合ってくれた。
「うわぁん、太一濡れたぁ」
「そんなもんに水一杯入れるからだろ」
「七虹香ちゃん、タオルタオル」
「太一、彼シャツ貸して!」
「彼シャツ…………」
「お前の彼氏に借りてこい!」
「七虹香ちゃん、私の着替えがあるからこのバッグの中の使って」
「奥村さん、濡れるからお風呂場手伝わなくていいですよ!」
「えっ渚、ベビードールなんて持ってきてんの? えっろ」
「それはダメダメ!」
「瀬川くんごめんなさい、間違えてシャワー出ちゃって濡れてしまいました……」
「いやだから言わんこっちゃない」
「つーか、なんで奥村が瀬川のっぽいシャツ着てんの」
「百合ちゃん、私のじゃサイズ合わないから……」
「ちょっと奥村さん、僕のシャツの匂い嗅がないで」
「こんにちは。あれ、なんかみんなすごい格好じゃない?」
「相馬もノノちゃんもいらっしゃい」
「瀬川くん、誕生日おめでと」
◇◇◇◇◇
「はぁ、疲れたわ……」
太一がソファに座って来てコントローラを手に取る。
その横に祐里が座って最後の1個のコントローラを手に。
「いや、聞いてる俺の方が疲れたわ」
男同士でやっとゲームをすることができた。相馬じゃなくて鹿住ちゃんが居るけど。
いやもうマジ帰ろうかと思った。田代じゃないけど、こんな女子いっぱいの空間には耐えられない。だがなんとかギリギリで、帰りたくなったのを太一たちが一緒にゲームをして留めてくれたのは、俺にとっては幸いだったかもしれない。何故ならその二十分後――。
ピンポーン――玄関チャイムが鳴る。また誰か女子でも来るのか?
「あ、いらっしゃい。どうぞ上がって。――ケーキ来たよー」
「ごめんねー、遅くなって」
俺の耳が意識していないのにピクリと動く。
何故? どうして?
ここでは決して聞こえないはずの声が聞こえた。
振り返るとそこに俺の天使が居た。
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