幕間 キャンプ その後

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幕間 キャンプ その後

「マジでェ? あたしも見たかったわァ!」  ビール片手にスペアリブに齧り付きながら上機嫌でそう言った酔っ払いは、一昨日から僕と相馬をこき使ってくれている吉田さん。面倒見はいい。だけどちょっとワイルド過ぎる所とか、声がデカい所とか、僕らの体力を(かえり)みない所とかが苦手でこちらは及び腰だった。  昨日、渚にその辺の心情を話したところ、――なんだ、嫉妬までしたのに損しちゃった――なんて言ってた。 「最近の高校生は大胆ですよ。みんな見てるところで抱き合うんですから」  そう言いながら山田さんは炭火コンロの上の肉の焼け具合をみている。焼けた肉は僕たちもそうだけど女の子たち――特に吉田さんに回していた。  今日の昼に渚が聞いたところによると、山田さんは年上の吉田さんに片思いしているようで、僕や相馬の面倒を見ることになった吉田さんに気が気じゃなかったらしい――渚の話だから大げさかもしれないが――、なのにノノちゃんに続いて渚までもがあんな独占欲丸出しの愛情表現を示し、相馬や僕が受け入れたのを見てホッとしていたんだそうだ。大学生ってもっと余裕のある大人かと思ってたんだけど……。 「相馬はともかく瀬川くんまでそんなことしてたの?」 「ともかく――は酷いな、新崎……」 「いやいや、抱きついて来たのは渚たちだから……」 「野々村さんも意外ですね、誰かに相馬くんを取られそうだったのですか?」  山咲さんの問いかけに、ノノちゃんは目を丸くして首を横にブンブン振っている。  渚が寮で聞いたところによると、ノノちゃん、渚が僕に抱き着けなくて機嫌が悪かったのを何とかしようとしたかったみたい。 「太一くん太一くん、百合ちゃん、お肉沢山貰っちゃったんだけど、食べきれないって言うから貰ってあげて」  渚は奥村さんと肉を貰いに行っていた。奥村さん的には野菜が欲しかったんじゃないかな。山田さん、女の子にはサービス精神旺盛だから……。 「わかった。どうぞ……っていや、口じゃなくてですね、取り皿に載せてください奥村さん……」 「じゃあ私から。はい」  あーん――なんて言うまでもなく、僕の口にフーフーと少し冷ました肉を運んでくる渚。渚の食べさせてくれるご飯はなんでもおいしい。そうしてるとフラッシュの光が。見やると山咲さんがスマホを向けていた。そして相馬が――。 「ほら、俺と違って瀬川の方がよっぽど恥ずかしいことしてるから」 「恥ずかしげもなくよくやるわね。恋人ができると皆ああなるのかしら?」 「私はああはなりませんでしたね」 「琴音さん? 告白されて付き合うのは構いませんが、少しは好意を寄せてあげませんと」 「え、琴音、また恋人作ったの?」 「お試しですけどね」  奥村さんは引いてるが、山咲さんは相変わらず恋を探しているらしい。そう言う意味では新崎さんも同じだったけど、彼女の場合は自分の直感頼りっぽいので告白はすべて断っているらしく、あの容姿で未だに恋人が居ない。  まあ、そんなやり取りの陰でこっそりノノちゃんが相馬にあ~んをやっていた。  渚はと言うと、山咲さんから送ってもらったさっきの写真を眺めていて満足そう。それから食欲旺盛で肉もしっかり食べていた。まあ、男子ほどじゃないけどね。  ◇◇◇◇◇ 「いやあお疲れさま! お客さんが多くて大変だったでしょ。よく頑張ってくれたね」  そう言って大きな声で僕たちに話しかけてきたのはオーナーの濱田さん。臨時のアルバイトの皆を(ねぎら)うためにBBQ(バーベキュー)を用意してくれた。僕らがお礼を言うと――。 「――こちらこそお客さんも連れてきてくれたし、助かったよ」  新崎たち三人のことだ。彼女らは何から何までキャンプ場側に任せきりだったので費用もそれなりにかかるから上客ではあったらしい。僕らの友達と言うこともあって一緒にBBQに呼ばれていた。そう言った濱田さんは僕に――。 「――太一くんだったよね? 竜宏をノシて飛倉の爺さんに挨拶したそうじゃないか。やるねえ」 「いや、あれは友達とか渚のお母さんのおかげで……」 「光枝さんが屋敷を切り盛りしていくってやる気を出してたからね、ありがたいことだよ」  バンバンと背中を叩かれて感謝され、その後も渚と一緒に濱田さんの奥さんや娘さん、娘婿さん、他にも話を聞いた従業員さんやアルバイトの人たちに囲まれて大変だった。既に親戚のように扱われている。スキンシップの多い大人が周りに居なかったものだから僕も、そして渚もされるがままだった。  視界の端では、こんどは相馬がスキンシップに晒されていた。  相馬もたぶんああいうの慣れてないだろうな。  そして相馬の隣に居るノノちゃんは声を掛けられる前からプルプルと震えていた。  ◇◇◇◇◇ 「ごめんね、太一くん。私ちょっと嫌な子だった」  月も無くて少し寂しい春の星座の下、芝生の上で膝を抱え、隣にくっついて座っている渚がそう言った。 「そんなわけないでしょ。渚を嫌だなんて思うわけない」 「そう?」 「そう」  だって渚は僕だけの宝石なんだから。  僕の中に閉まっておきたいけれど、外の世界で輝いてこそだとも思う。  だからこんなところで嫉妬していたらキリが無いんだ。 「今日は眠くないの?」 「さすがに三日目だから慣れてきた。昨日も良く寝たし。渚は大丈夫だったの?」 「私はそんなにでもないかなあ」 「昨日も一昨日も?」 「気疲れはした! でも体は大丈夫!」 「渚はすごく体力が付いたね」  エッチだって長くなってきた。もちろん毎日って訳じゃないし渚の体調にも依るんだけど、以前に比べてものすごく求めるようになってきた。ちょっと心配なくらいに。一年前の文学少女そのものだった渚とは思えないくらいに。 「ん…………だって太一くんといっぱいお出かけしたいもん」 「そうだね…………」  渚は頭を僕の首筋に擦り付けるようにしてきた。  辺りが暗いのを確認してから頬を渚の頭に擦り付ける。  彼女は顔を上げ、僕たちはキスをした。  顔を離そうとすると首の後ろに腕を回され、離してくれなかった。  渚、ちょっと欲求不満だったのかもしれない……。
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