レナの秘密

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「こいつが、オレの本当の得物……心を許した相棒さ。いつかエリシア(巨神竜)と直に戦う時のために、剣闘場の界隈にゃあこいつの存在を知られたくないんでね」 「だから、剣闘場に併設の鍛錬場ではなくて。こちらにわざわざお越しになって、人目を避けてそちら(相棒)と向き合っておられると?」 「そういうこと」  エリシア様の用いる神器は、彼女の身の丈よりも大きく長い、戦斧の形をしています。シホ様が、いつか彼女の戦斧と直接対決をする時に、最善を尽くすために。「相性を考え抜いて選んだ最適な相棒」が、彼の本当の得物であり。普段、予選会で扱っているグラディウスは本当の相棒ではない。だから、完璧な動きが出来なかった。そういうこと。だったのだと。 「シホ様はどうして……傀儡竜という、先の短い体に生まれながら……『エリシア様と戦う事』を目標に選ばれたのでしょうか」  彼と初めてお会いしてからずっと、疑問でした。何せ、どんなに努力を重ねたとしても。太陽竜の神器をお持ちではない状態での「最弱の神である、傀儡竜」でしかない彼がエリシア様に打ち勝てる見込みなど、ほぼほぼありえないのです。 「失礼ですが、最初から、二十年しか健康に生きられないとご存じの上で、エリシア様を目指すなど……その二十年間で、もっともっと、達成可能な目標を据えるとか……なんなら、限られた時間なのだから極力心乱されず、ただただ穏やかに……少しでも傷を負わず、平和に暮らしたいとは考えなかったのですか?」  最初にお断りしているとはいえ、あまりにも失礼な疑問をご本人に対して、直接にぶつけてしまっている自覚はありました。それでも彼の態度は全く変わりません。以前から感じておりましたが、彼は、このような言葉の投げ合いで心を乱されることがまるでないのです……。 「二十年しか生きられないからって、何の努力もしないで一生を終えていいってわけじゃない。それがオレの信条だからだよ」  彼の体には、剣闘場で……いえ、おそらく、グランティスへやって来るより以前から。修練の日々の中で刻まれたであろう傷の痕がいくつもあります。そう言ってほほ笑む彼の頬には、先日の試合で負ったばかりでまだ塞がりきっていないであろう、真新しい傷が見えています。その傷のひとつひとつは、彼の信じる努力の痕跡なのでしょう。
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