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「う~む、半年がかりでやっと、勝ち星四十か。なんともはや、もどかしいもんだね」
あの夜以来、わたくしはグランティスの街を出た平原にて、シホ様と逢瀬を重ねていました。……待ち合わせをしたわけでは、ないのですよ? わたくしもシホ様も、かねてより自分がそうしていた習慣を変えたりせず、自分の来たい時にこちらへ足を運んでいる。ただ、それだけのことです。
「グラディウスではなくそちらを常にお使いになれば、自分の本来の実力を発揮できるのではないですか?」
「そうかもしれないが、勝ち星を得るのに焦って、エリシアと戦う前にこいつを人目に晒すよりはね。時間をかけても切り札を温存しておこうと思うんだよ」
「時間が足りないと、おっしゃりながら?」
「足りないとは言わないよ。ちょう~ど良い配分の具合を考えてるところさ」
十五歳になって予選会の新人となり、時間の限りである五年後までに、最終目標であるエリシア様との戦いを見据えている。そのための、ちょうどいい、時間の配分。先の見えない人生を漫然と生きている、わたくしをはじめ大多数の人々とは、感覚がまるで違うのだと思います……。
「さて、と。夜風と月見をたっぷり堪能したことだし。今夜も始めるかい?」
「はい……」
わたくしは彼の耳に届かないよう、ごくごく小さな声量で呪文を詠唱し、手の宝石から魔法剣を現しました。
「……いや、あのね。なんだってそう、夜伽前の娘みたいな顔してそいつを出すんだよ。あんたの相棒なんだろう?」
「いえ、その。なんとも言い難いんですが、何故だか無性に恥ずかしいんですよ……」
「人前で魔法剣を見せたことのない、秘密の嗜みだったんだっけ? なんでまた、そんなこそこそする必要があったのかねぇ」
シホ様は心底から不思議そうに、わたくしを上から下までしげしげと眺めまわします。恥ずかしがっている女性をそう無遠慮にじろじろ見ないでいただきたいものですが……。
長年に渡ってひとりでこっそり、魔法剣の自己鍛錬をしていたわたくしは、誰かと打ち合いの稽古をしたことがありませんでした。こうして秘密を知ってしまったのも何かの縁と、わたくしとここで出会った夜には、シホ様はグラディウスを用いて魔法剣の稽古に付き合ってくださいました。
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