予選会、卒業

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予選会、卒業

 シホ様も順調に勝ち星を重ね、九十九に届き。百人目になるかもしれない相手との対戦を迎えました。 「ひゃあ~……また、とんでもねえ貫禄じゃねえか。こいつがまだ、予選会の選手だって?」  ロムパイア使いのオーデン。現在の予選会の選手の中では最も体格が良く、決して低身長ではないシホ様の頭ふたつ以上は身長差があります。おまけにその身長とほぼ同じ、長柄のS字型刀剣であるロムパイアを大胆に振り回す戦法です。彼の故郷では狩りの際、逃げる獲物の足をすっぱり両断するのだとか。 「そんな凄まじい切れ味じゃあうかつに打ち合いも出来ねえなぁ」  先ほど、シホ様自身もおっしゃいましたが、「こんな恵まれた体躯と武器を持ちながら、未だ予選会の選手に甘んじている」のにも理由はあります。彼は臆病な性格で、それゆえに故郷に馴染めず、身売りされたに近い形で剣闘場へ送られてきたのでした。 「予選会の最後としちゃあ、おあつらえむきの得物じゃねえか。悪いが、エリシアの持つ長いやつ(戦斧)との予行と思ってあたらせてもらうぜ」 「お……おで、知ってるぞ。シホ・イガラシ。おまえはながいきできなくて、じかんがないんだろ……わ、わざとまけてやっても、いいぞ」 「おいおい。おまえの目にはこの顔が、そんな哀れに映ってるとでもいうのかい?」  大男を前にしても、いつも通りに自信に満ちたそのお顔を、シホ様は自ら指さします。 「……う~ん。み、みえねえ」 「だろう? そんなもの(哀れみ)はいらねえからよ。いつも通りにかかってきな」  オーデン様は大きな体にふさわしく、たっぷり吸いこんだ息で深く深く、溜息を吐きだしました。これは彼が、試合の度に行う精神統一です。その隙を突いて攻撃、などは、シホ様に限らず対戦相手の皆様はそんなにされません。空気を読んでいるとでもいいますか。もちろん、とにかく勝ち星が欲しくて余裕のない方でしたら、ここぞとばかりにその隙に動き出しますが。 「ふうぅ~……うううりゃああ~~ッッ!」  臆病な割に、なのか、それゆえに、なのか。オーデン様は、威嚇の唸り声を上げながら愚直に突進してきます。恵まれた腕力でめいっぱい、巨大なロムパイアを右旋で振りました。狩りの際に足を狙うのが癖になっているのでしょう、対戦相手の足元を狙うのが彼の常套。そんなものが直撃してしまっては、膝から下がすっぱり両断されてしまう、恐ろしい威力です。
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