予選会、卒業

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 跳躍が得意な選手であればその攻撃を上に跳んで交わす光景も、よく見かけます。が、シホ様はそのように、常人から外れた動きで闘う方ではありません。日頃から、対戦相手の情報を仕入れて、頭を使って対策を考える人なのです。  先ほど、切れ味がするどすぎて打ち合いも出来ないと言っていたのに。シホ様は、ロムパイアの刃先の動きを先読みして。自分の左足のすぐ側に、力いっぱい。愛用のグラディウスを地面に突き立てました。 「……い゙っ……」  なにぶん、全力で振り回していたものが弾かれたのですから。そしてそのために、強く長柄を握りしめていたのですから。オーデン様は驚いて思考が追い付かないまま、まるでコマのようにくるりと一周も回ってしまいました。その隙にシホ様は悠然とグラディウスを抜かれて、 「はい、お疲れさんっと」  回り終えて再び、自分と正面から向き合ったオーデン様の首の防具へ、グラディウスの刃先を差し向けたのでした。  オーデン様の全力のロムパイアを受け止めたグラディウスには、亀裂が入ってしまいました。どうにか堪えてくれたから良かったものの、もし刃が破損していたとしたら、その横に立っていたシホ様の足は今頃なくなってしまっていたかもしれません。いかに綱渡りな戦略であったのかを目の当たりにして、わたくしはもはや戦慄するより呆れてしまいました。  剣闘士の皆様はこうした場合、剣闘場に併設されている鍛冶場に足を運ばれて、愛用の武器を修繕しています。せっかく「正式に剣闘士に昇格した記念日」でありながら、シホ様はお祝いより先に鍛冶師からのお小言を先に頂戴する羽目になりました。そして、鍛冶場にお預けしたグラディウスが全快するまでは本戦への出場もお預けです。 「いっつも手荒い扱いで、あいつ(グラディウス)にゃあ気の毒なことしてると思うぜ。まあ、所詮は二番手のオンナのようなもんで、悪いが仕方なしってとこだな」 「……シホ様って、本当に十六歳なのですか? 言動だけを見ていると、まるで『下品な物言いの中年男性』みたい……あなたを見ている皆様もそう感じておられると思いますけど」 「オレを見ている皆? 誰だそら」  言われてみれば、どなたでしょう。自分で切り出しておきながらよくわかりません。剣闘場の観客の皆様は、剣闘士の皆様はこういう方が志願してくる傾向があるので、性格の荒さなんて気にされません。
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