最弱の神は、生きた証を残したかった。

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「運命を覆すことは出来なくても、このグランティスを最期の地として選んで、最後まで全身全霊で戦った。戦士として生き抜いた。そんなあいつを、あたしは心から誇りに思う」  シホ様が剣闘場で生きる道を選ばれたのは、エリシア様に憧れて、彼女と戦うためでした。そんなエリシア様が公の場で称賛し、哀悼を示し、その御心を民に共有しようとされている。彼がこの事実を知ることが出来るのなら、きっと誇りに思ってくださったでしょう。  エリシア様のお言葉を主賓室から拝聴していたわたくしは、本来であれば起立しているべき場面でありながら、情けなくも椅子にかけさせていただいていました。シホ様は発見され次第手早く埋葬されてしまったため、最期の姿をわたくしはお目にかけることも出来ませんでした。  そんな現実がただただ悲しくて、わたくしはずっと、涙が止まりませんでした。彼がわたくしに残してくださったものが宿るお腹を手のひらでそっと押さえて、吐き気を必死でこらえながらここにいます。恥ずかしながらいつ、吐き戻してしまうかわからないため、普段は剣闘場では側仕えさせていない女中が桶を持って後ろに控えています。  まだ知らぬ人の訃報などという悲しい話から始めてしまって、申し訳ありません。ですが、わたくしは彼の、たった二十年の命をどうか、語り継ぎたいのです。彼は「最弱の神の器」という恵まれぬ運命に生まれながらも……。  自分の生きた証を、自分の亡き後のこの世界に残す。何よりも、それを希望として生き抜いたのですから。
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