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「それを受けるかはともかくとして、言うのは構わないわよ」
エリシア様のお言葉に「ありがてぇ」とくだけたお礼を述べて、少しだけ頭を下げながら、彼は頭巾を外しました。
「こいつが何を意味するか、あんたにはわかるだろ? 巨神竜」
彼の髪の毛は真っ赤に染まっていました。この世界では「赤い髪」は悲劇と畏敬の象徴とされていて、普通の人は自ら選んで染髪したりはしません。
「傀儡竜なのね、あんた。えーと……シホ・イガラシ?」
先ほどまでの高揚はすっかり失われて、エリシア様は冷えた眼差しで彼を見据えて、流れるように自身の膝元の資料に目を落とします。シホ様の提出された、志願にあたって必要な書類です。
傀儡竜は赤い髪を持って生まれます。その赤い色は、神罰を封印されている証です。二十歳になると赤い髪は彼が本来生まれ持った地毛の色へ戻り、その瞬間から神罰が下されるのです。
「そういうこった。オレは傀儡竜だから、あと五年しか戦えない。予選会の通常の決まり通りに一日一試合ずつやってたんじゃ、五年以内にあんたとの対戦資格を得るのに間に合わないかもしれない。特例で、その日オレが負けるまで試合を連戦させてくれ」
事情は重々承知なのですが、決まりそのものを変えて欲しい、ではなく「自分だけを特例として認めてくれ」とは、かなり図々しい願い出です。当然、このような前例はありません。わたくしは唖然としてしまいましたが、
「いいわよ、面白そうだから認めてあげる」
エリシア様は一寸の躊躇いも思考の暇すら感じさせぬ即答で、シホ様の特例を認めてしまいました。
シホ様といえば、一国の女王が情けをかけたというのにそれを「当然」と言わんばかりの表情で一礼し、着席しました。わたくしはあらためて、彼のお顔をまじまじと見てしまいます。
驚きのあまり思考停止していましたが、シホ様は声質はいたって男性的だというのに、お顔立ちはかなり女性寄りの美しい造作をされていました。剣闘士として志願されるくらいですから体を鍛えておられるので、お顔と体がちぐはぐな印象を受けます。……けれど。
二十年しか生きられない傀儡竜という運命を背負うゆえの儚さを内包しながら、それを一切憂いていないのが伝わってくる、自己肯定と自信に満ち溢れた輝かしい表情。その上での、女性的で美しいお顔でもありますので……はしたなくも、わたくしはだんだん、胸に動悸を感じ始めてしまいました。後になって振り返れば、おそらくそれは、いわゆる「一目ぼれ」……そういうことだったのでしょう。
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