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「オレが五体満足でいられるのは二十年限りなんだぜ? 凡人と同じ感覚で十五年生きてるようじゃあ時間が足りねえからな」
言葉だけ見れば残酷で自虐的なことをおっしゃりながら、シホ様の声の響きには悲壮感が一切ありません。彼にとってはごくごく当たり前の事実として長らく生きて来ていて、悲観などされていないということなのでしょうか……。
「ふむ。あんたの得物は持ち込みのグラディウスね」
剣闘場では、自らの愛用の武器の持ち込みが認められています。と、同時に、剣闘場で備え付けのサーベルを借り受けての出場も可能です。シホ様の背中に張り付いた彼はサーベルを、シホ様は使い込まれたグラディウスを右手にぶら下げています。
「オレの出身地じゃあサーベルは主流じゃなくてな。修練場で腕を磨けるのがこいつだったのさ。つうか、グラディウスの語源になったのは戦時中にグランティスの雑兵が集団で持って戦ってたからなんだろ? そのグランティスが今は推してんのがサーベルっつう方がよっぽど疑問だけどな」
「だからじゃない。百年単位で使いすぎてて飽きたのよ、あたしが。グラディウスでの戦いって動きが直線的になりがちだし、サーベルで多様な取り回しさせるの面白そうって思ったのよね」
グランティスの剣闘場は、絶対的に、エリシア様の退屈しのぎのために存在する場です。彼女が望めばこのような強引がまかり通ります。シホ様の背中の彼はエリシア様の物言いにすっかり青ざめてしまい、しかしシホ様は「なるほどねぇ。納得したぜ」と口を尖らせ、ひゅうと短く口笛を鳴らしました。
試合開始前にシホ様との雑談を楽しまれたエリシア様は、観戦のため主賓室へ向かわれました。わたくしは内心ではこのようにあれこれ思いながらも口を挟めないまま、エリシア様の腰巾着のように彼女について回ります。
恥じるべきことではあるのですが、グランティスという国にとって、神の器を持ちすでに七百年も我が国を導いて下さるエリシア様の存在はあまりにも偉大過ぎまして。王族といえど、わたくしのように彼女に頼り切ってしまうのは今に始まったことではないのでした……。
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