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「だったらお姫様、魔法剣で予選会から出場したらいいんじゃないか?」
「なっ……どうして、そのような」
「だって、いっつも物欲しそうな目をして見ていただろう。オレ達の試合をさ」
いったい、いつの間に、観戦するわたくしの眼差しに気付いていたのでしょう。羞恥心からか、あたたかな月光に包まれた穏やかな景色が、真っ赤に染まるように感じました。その恥じらいを自覚したくないのか、瞬間的な怒りに変換してしまったように、わたくしは彼につっかかります。
「無礼な……ッ! わたくし達の務めは、グランティスのために子孫を繋ぎ、国を守ることです。エリシア様のように、人の扱う武器でならどれだけ傷を受けても死ぬことのない『神様の体』とは違うのです。わたくしが命がけの試合に出て命を落とすようなことがあれば、グランティスの今後に関わるのですよ!?」
エリシア様をはじめ、「神竜様の体」というのは、特別な効果を持つ「神器」でしか、その命を絶つことが出来ません。それは、シホ様はもちろん、エリシア様よりさらに格上である、「最高神の太陽竜」の操る神器です。
傀儡竜が神話時代に犯した神殺しの罪というのは、太陽竜の命令でその神器を代行して扱い、同胞の神々を殺めたからです。この世で神竜を殺せる神器を扱えるのは、太陽竜様ご本人。そして、シホ様が二十歳を超えて傀儡竜の体になったなら、その時には。ただし、傀儡竜になるということは神罰の発動があるので、とても武器を振るうことなど出来ないでしょうが。
「だから諦めるっていうのかい? 自分の挑戦したいと思うことを」
「……それは」
「もったいないねえ。せっかく、あんたにゃなが~い時間があるっていうのに」
怒りにまかせて、彼の体の事情を失念して、失礼なことを言ってしまいました。
「……申し訳ありません。無礼はわたくしの方でしたね」
「気にすることはないさ。あんたは王族で、オレは庶民だからね」
「ですから、グランティスではそのような身分差はないとお伝えしたでしょう。王族からとはいえ、無礼は等しく、無礼です」
なのですが、シホ様がそうお許しくださるのなら、これ以上食い下がるのはやめることにしましょう。
「シホ様、あなたが今、お持ちになっているのは……」
「悪いが、内密に願えるかな」
「もちろんですよ……」
今宵、彼が携えているものを見て、わたくしは深く納得していました。どこか完璧とは思えない、予選会での彼の動きの理由がわかったから。
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