プロローグ

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プロローグ

 僕らは昔から死にたくもなかったけれど、生きたくもありませんでした。  厭世的と言われればそれまでで。けれど多感な時期をそれなりに近くで過ごした僕らが「どちらが先に死ぬか」で競うようになるのは、至極自然なことだったのだと思います。  だから彼女が微笑んで死んだと聞いた時は、胸に爪を立てられたような鋭い嫉妬を覚えました。  その場の誰に宛てるでもなく「勝った」と呟いたという彼女を、僕は余生をかけて恨むのでしょう。  ユキノセさんの葬儀の日は、それまで大切に取っておいた夏空を開封したかのような快晴でした。  大学二年生になったばかりの僕は靴擦れの痛みを堪えるので精一杯で、彼女との訣れに対して何らの悲しみも抱けません。  慣れない革靴の痛みのせいか視界の端が徐々にぼやけてきて、僕は思わず座り込みます。  そこから先の記憶は消失していました。
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