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ぐったりとソファに沈んだまま、動かない時間が、5分程度あっただろうか。
ふいに控室のドアがノックされ、隼人は反射的に背筋を伸ばした。
「どうぞ」
「桐生さん、おはよう! そして、お疲れ様でした!」
やけに元気な訪問者は、隼人のチーフマネージャー・笹山(ささやま)だった。
中年に差し掛かり、少し丸くなってきた体を部屋の奥へ進めながら、彼はすぐさま喋り出した。
「ね、ね、ね。考えてくれたかなぁ?」
「何を、ですか?」
隼人は疲れた素振りも見せずに、笑顔と柔らかなボイスで笹山に向き直った。
いつでも、どこでも、誰にでも、人当たりがいいのは、彼の良い評判の一つだ。
「またまた、とぼけちゃって!」
勧められてもいないのに、笹山は隼人の隣に掛けると、ボディショルダーからタブレットを取り出した。
「あのね。ハウスキーパーも、募集してみたんだ。結構、可愛い子もいるよ?」
「笹山さん。その話だったら……」
「もう、予約しちゃったから。マンション」
隼人は、脳内で頭を抱えた。
笹山から勧められていたのは、ホテル住まいをやめて、マンションに落ち着くこと。
そして、そこから日常生活を中心とした、動画配信を始めることだった。
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