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ディアナは、その後、王都警備騎士団の営舎に運ばれ、そこで事情を聞かれた。
なぜ、控えの間にいたのかについては、曖昧な記憶しかなかったが、自ら女子寮での事件の真相について語り自分の罪を認めた。
彼女は、ジュディスとシオドーラのどちらかを殺害し、もう一方に罪を着せるつもりだったと告白した。以前から好意を持っていたスタンリーと卒院前に親密になっておくため、二人の対立を利用して、同時に二人を排除しようと考えたのだった。
王都警備騎士団から報告を受けた貴族会議は、彼女に辺境にある神殿の巫女となることを命じ、秘密裏に王都から追放した。
娘が命を狙われていたことを知ったオドノヒュー家と娘の婚約解消という痛手を負ったフェザーストン家は、貴族会議に対しディアナへの厳罰を要求したが、フォールコン家が両家に多額の慰謝料を払い、王立学院への寄付も申し出たため、このような寛大な処置となった。
スタンリーは、またまた思い人を失い、かなりやつれたという噂もあったが、静養のために戻った領地で「運命の相手」と出会ったらしい。
相手は、三人の子をもつ未亡人だとか、彼を抱え上げられるほどの力持ちの村娘だとか、王都では様々な噂が飛び交っているが、領地での話なのではっきりしたことはわからない。
だが、少なくとも、女性を美貌や財力で評価することはやめたようだ。
そして、ダフィールド侯爵邸では、今日もまた――。
「お嬢様、どちらへお出かけですか?」
淡い枯れ草色のドレスを着て玄関に現われたジェニーに、アレックスが声をかけた。
今日は、ジェレミーが王宮魔道士団へ出仕していて、屋敷を留守にしている。
あの一件以来、ジェニーの行動をしっかり監視するようジェレミーに命じられているアレックスは、今まで以上に口うるさくなっていた。
「今日は、グレネル様が非番なので、一緒に植物園へ行くことになったの。もちろん、クレアも連れて行くわ」
「植物園ですか? まさか、そこで稀少な植物が盗まれたり、毒草を食べた人が倒れたり――なんてことが、起きたりはしていませんよね?」
「おかしなこと言わないで! 本当に植物園を見学するだけよ!」
疑わしげな目つきで見つめてくるアレックスを無視して、ジェニーは玄関の扉を自分で開けた。
爽やかな朝の風が、屋敷の中へ吹き込んできた。
「まあ、出かけてみたら、何があるかわからないけれど……ね。」
アレックスには聞こえないような小さな声でつぶやいて、ジェニーはにっこりした。
もしかしたら、自分が誰の目にもとまらないというのは、神が与えた加護の一種なのかもしれない――、とジェニーは思い始めていた。
それならば、その力を有意義に使うまでである。
この社会の平穏のために――。
そして、愛する人々のために――。
緩やかな坂をゆっくりと下り、屋敷へ向かってくるグレネルの家の馬車を見つけると、ジェニーは元気よく手を振った。
* * * 終わり * * *
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