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とにかく今は、すがれるぬくもりが欲しかった。
彼女がここに在るという事実が欲しかった。
細く息をつき、四肢を折りたたんで目を閉じる。
ぬくもりを直に感じ取れるこの瞬間が、ひどく安心する。
シシィが眠りの淵に落ちる間際、彼の耳にくるぅと鳥のさえずった声が届いた気がした。
それが心に沁みこむようで、あたたかな心地のままに、シシィは眠りの淵へと落ちて行った。
そんなシシィを見ていたジャスミンは、口をきゅっと引き結んだ。
手で胸を抑える。よくわからないけれども、胸がざわつく。
彼には笑っていて欲しいと思った。
見たことがないはずなのに、自分は彼の笑った顔が好きだから。
見たことがないのに好き。矛盾しているなと自分でも思う。
けれども、好きなのだ。
ジャスミンの金の瞳が瞬いた時、そこに確かな光が宿っていた。
たぶん、彼が心を痛めている理由はあの小鳥だ。
ジャスミンから見ても、とても大丈夫そうには見えない小鳥。
左目に痛そうな傷がある。あれを治すことが出来れば。もしかしたら。
「……ジャスミンはおみずのせいしつじゃないから」
己の手を見下ろし、落胆をはらんだ声で小さく呟く。
扱うものが水の性質を持っていたら治癒の効果も期待できるのに、残念ながら自分は土だ。
それに、それ以前の問題でもあった。
ジャスミンは陣を知らない。
魔法というものには陣を用いいらないといけないのは知っている。
けれども、その陣を知らないのだ。
「でも」
顔を上げる。
母に訊けば何か力になってくれるかもしれない。
そう、薬とか薬草とかそういうもので。
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