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そんな少し嬉しくて恥ずかしい気持ちは──次の瞬間、一気に吹き飛ぶことになる。
「あのさ寺坂さん、よければお礼がしたいのだけれど」
「いえ!そんなたった百円でお礼なんてとんでもないです!」
そんなたかが百円、大層なお礼をされるほどのものでもない。逆にそんな小さな金額で律儀にお礼なんて申し訳ないと、私は手と頭をぶんぶんと降る。
すると彼は、微笑んでこう言った。
「僕は寺坂さんをデートに誘いたいんだけど、ダメかな?」
(デートに誘いたい……?私のこと……?)
その言葉に、頭の中が真っ白になる。
なぜこの人が私と?!
何の接点もない私をデートに誘うって?!
あまりに唐突な言葉に、目を見開いて立ち尽くす私を、彼は肩を竦めてクスクスと笑って見ている。
「前からね、寺坂さんのことは気になっていたんだ。だから機会を伺ってたの」
「いえ、でもでも…なにも接点は無いとは思うんですけど…」
「『いつも資料がわかりやすい寺坂さん』って言うのは、名倉さんの時代からのうちの共通認識だよ?」
名倉さん=前の光信堂の担当者だ。
私は社外の人間と関わることはほぼ無いし……第一私の名前が意外と認識されていたということに驚いた。
「それにね、いつもお土産美味しそうに食べてるでしょ?だからねぇ、美味しいもの食べさせてあげたいなって思ってたの」
正直私は、顔から火が吹き出そうだ。
そんな食い意地張ってるところまでも彼に見られていたなんて。
そんな石化する私を差し置いて、彼は相変わらずクスクスと笑っている。
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