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ただ何か……馬鹿にしてる感じも嫌みったらしい感じも全くしないので、不快には感じなかった。
ただただ恥ずかしさに、身体を震わせていた。
「で、寺坂さん、受けてくれる?」
一瞬にして真剣な目に切り替わる彼。
何だか私は、その空気に飲み込まれるように首を縦に振っていた。
「よかった、嬉しいな」
次の瞬間見せた笑顔は──ただただ眩しかった。
そしてそれは私にだけに向けられたもの。そう思うと、心の中が引っ掻かれたようにヒリヒリとする。
そして彼は、懐から名刺を出して裏に何かを書き始めた。
「これね、プライベート用の番号」
渡された名刺には、裏面に手書きの番号が書かれてある。
番号を確認すると、私は名刺を表にひっくり返した。
光信堂 営業一課に続いて書かれてある彼の名前。
「小林 佑 ……」
私は一瞬、ドキりとした。
口に出すのには抵抗はなかったが……いざ文字で目にすると、やはり少し抵抗があったから。
「千人中八人は『小林』って名字らしいし、『佑』ってのもありふれてるし、三万人に一人ぐらいは同姓同名が居てそうだよね」
彼は名刺を眺める私に、そんな自虐ネタを言って笑う。
まぁそう言われると、確かにそうだよなぁ……とは。
「でもいいお名前ですね」なんて当たり障りのない返事をすると、彼は苦笑いしたようにひきつった表情で笑っていた。
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