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私が助手席に乗り込むと、車はゆっくりと発進して行った。夕方の渋滞する道を、ブレーキを最小限に踏みながら滑らかに運転していく様子を見ると、どうやら運転には慣れているらしいことがわかった。
「あの、運転慣れているんですね」そう言うと「うーん、そこそこ」と何とも曖昧な返事をする。
「うちの祖父がね、車が好きだったんだ。だから家にはプラモデルが一杯あったんだよね」
「そうなんですか」
「その影響で僕も車に興味出て、好きになったんだ。特にこの車が一番走り心地が良くて好きなんだよね。貯金はたいて買える金額だったから買っちゃったんだ」
いや、ちょっと待て。
いくらあの光信堂の社員とは言え……こんな二十代半ばの人間が何百万とする車を買えるってことは。
「ひょっとして小林さん家、お金持ちです……?」
いや、この人相当なお坊っちゃまなのではないか……?
そう思うが、彼は「うーん、一応そうではあるけど」と肯定はするが、どこか意味深だった。
「どうせだし食事しながら色々話そうよ。是非とも史織ちゃんに食べさせてあげたいものがあるんだけど」
いきなりの名前のちゃん付け。
それだけでなんだか心臓に悪い。
私は赤面する顔を必死で押さえながら「お願いします」と精一杯の返事をした。
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