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「あの、ひょっとして常連さんなんですか?」
私は席に着くなり、恐る恐る聞いてみる。
すると彼は苦笑いしながらこう言った。
「父のお気に入りの店なんだよね。『デートするならここにしろ』ってよく言ってた」
つまり……やっぱり彼はお金持ちの坊っちゃんということには間違いないらしい。
「正直な話……会社は父経由の『縁故入社』であるということは認めるよ。所詮コネだと思われたくないから、必死で頑張ってる」
そう言われるとなるほど、と。
まぁきっと父親は光信堂の重役のお偉いさんか、沢山ある関連会社の社長辺り?なんだろうなとは。
それは彼自身が人格者で……それはきっと彼の土壌を作る両親由来なんだろうなというのがわかるから。きっと父親も沢山の人に慕われる上に立つ人なんだろう、と。
「お父様もすごい方なんでしょうね」
そう言うと彼は「ははは」と何だか苦笑い。
「まぁ父はさ、すごい人であるけど……たまに酷いんだ」
「どういうことですか?」
「僕さ、ここに入る前にも結構色んな所に行かされたんだよね」
「と言いますと……?」
「『店の赤字回復してこい』だの『経費二十五パーセント減らしてこい』だの言われて、経営悪化してる色んな所に送り込まれたんだ。あの車は、その時稼いだお金なの」
どうやら彼は、お坊っちゃまの生ぬるい環境に身を置いていたわけじゃなく、なかなかのスパルタ教育をされているらしい。それに驚くことに、彼はめげずに成果を上げている。
やっぱりかなりのやり手なことには間違いはなさそうだ。
「だから親の金じゃないし、怪しいお金でもないから安心して」
怪しいお金。
その単語に吹き出して笑っていると、彼も釣られてクスクスと笑っている。
その顔は……まるで物語の王子様が飛び出てきたように眩しくて、優しい笑みだった。
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