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──その日私は、ひたすら料理に驚いた。
大とろや金目鯛・ヒラメという定番の握りの他に、あんこうの唐揚げやめひかりの南蛮漬けなど初めて見る料理に驚き、さらにその美味しさに驚きという感じで、ひたすら「美味しい」という言葉を連呼していた。
一品料理はどれもおまかせで頼んだワインとよく合い、普段あまり飲まないお酒がぐんぐんと進んでいく。そしてそのお酒と共に、彼とも少しずつ打ち解けて行くことができた。
「史織ちゃん、どうする?握りなんか追加で頼む?」
「いえーお腹いっぱいですよ。久しぶりにこんなお酒飲みました」
そして食事が終わろうとする頃には、彼が私を『ちゃん付け』で呼ぶことにも抵抗がなくなり、普段の同僚と話すようにフランクに話ができるまでになっていた。
これがお酒の力か。
「じゃあそろそろ行こうか」
そう言って彼は財布を持って立ち上がる。
「あの、えっと私も少しは……」
さすがにこんな高級店。奢られっぱなしはやっぱり私の心にも悪い。
「いいって、その代わりに頼みを聞いて?」
彼は財布を出そうとした私の手を掴んで制止させると、顔を覗き込んでこう言った。
「また、僕と食事に行こう?その気持ちだけで十分だから」
にっこりと柔らかい笑みを浮かべる様子は、まさに王子そのもの。
もうその顔に頭がクラクラして、どうにかなってしまいそうだ。
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