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結局その日は彼に押されて、お金を受け取って貰うことはできなかった。
帰りも彼に家の近くまで送って貰うことになった。真っ暗な中に浮かぶ街灯と信号の光だけしか見えない車内。そんな薄暗い状況でも、何だか煮え切らない表情をしているのは彼にも伝わってはいるらしい。
「だからまた食事に行って貰えるだけで、僕は十分だから」
なんて言うけれど……私にそんな価値があるとは到底思えない。
「今日の史織ちゃんが幸せそうに食べてるの、見てるだけで幸せだったから」
決して彼は酔っているわけではない。
でもこんな非現実で足が地につかない台詞を吐かれると、私の恥ずかしさが限界点を突破しそうだった。
「次、なに食べたい?何でもいいよ。お店探しておくから」
「えっとじゃあ……中華とかどうでしょうか?」
「中華?」
「はい」
実は中華には、少しこだわりがあるのだ。
「私ね、炒飯はパラパラじゃなくてべっちょりしてる方が好きなんです。何かそういうのって……いかにも『昔ながらの町の中華屋』って店しか見たことがないんですよ。もっと入りやすい店で、そういう炒飯出してる店があったら是非とも行きたいんです!」
恐らく中華の超高級店というものは、パラパラの炒飯が主流であろう。でも私は炒飯はべっちょり派なのだ。
だけど私は今まで昔ながらの(女性一人では入りづらい)中華屋さんでしかベチョっとしている炒飯に出会ったことがない。
そういう条件なら店のセレクトは、価格帯を押さえた所になるのではないか?とも思ったのだ。
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