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そろそろ時刻は、午後四時になろうとしていた。
(うーん、どうしよう……)
私は布団を見つめながら、思わずため息が漏れた。なぜならば彼女は熟睡中で全く起きる気配がなく、すやすやと寝息を立てて眠っているからだ。
その眠っている彼女は、私の宝物の佑依だ。
佑依は私の娘。大切な……本当に大切な宝物だ。
まだ一歳と数ヶ月の小さな子供。日に日に成長していく姿に、愛おしさと幸せを感じる。
私はこの佑依と二人で、この街で暮らしている。
たった二人きりの家族。それでも私は、十分に幸せだ。
何も生活に不自由はない。ただただ穏やかであるように、それだけを思ってここまで暮らしてきた。
私はそろそろ起こそうと、寝ている佑依に顔を近付ける。
佑依は一瞬変化を感じ取ったのか眉間に皺を寄せるが、寝返りをうつとうつ伏せの状態で再び夢の中へ。ずっと抱っこで寝かしつけていたからだろうか。うつ伏せになりより一層安心しきった表情。
その彼女の表情──それが、かつて愛した人を思い出して胸が痛む。
あの何も知らずに幸せだった日々。
あの人の温もり、私を呼ぶ声……何一つ忘れたことはない。
例えそれが……偽りだったとしても、だ。
──ピンポーン
チャイムが鳴り、私は玄関へと急いだ。
今日は佑依と出掛けた際に、うっかり水筒を忘れてしまった。それを知り合いの人が見つけて預かってくれている。それを買い物の帰り、私の家に届けにくると連絡がきたのだ。
きっと届けに来てくれたんだろう。
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