憧れのあなた──過去

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その私が出した条件に、彼はやっぱり少し考えている模様だった。 「うーん、出来れば僕の手作りの炒飯食べさせてあげたいけどね……。炒飯作るの得意なんだよ」 「そうなんですか、料理するんですか?」 お坊っちゃまなのに意外だ、と驚く。 でも彼は「以外と上手いんだよ。今度食べてよ」と笑顔でそう答えていた。 そしてすぐうちの近くに到着したので、すぐそこに車を止めてもらう。 「ここでいいの?」 「はい、そこ曲がってすぐなんで」 家に上がって貰おうか。なんて考えたけど、さすがに初日でこれだけの刺激で、頭を整理する時間が欲しい。 ここから家までは歩いて数分。 途中にコンビニもあるし、頭をクールダウンするには持ってこいだ。アイスでも買って食べながら頭を冷やそうか、なんて考えていた。 「じゃぁ気を付けてね」 「はい、今日はありがとうございました」 そうしてドアのロックを外そうとした──その瞬間だった。 「一つ忘れてた」 そう呟いた彼に振り向いた瞬間。 彼は私の頭に手を回して引き寄せては、一瞬だけ頬に優しく唇を当てる。 柔らかな感触が走り、頭の思考回路が一気にシャットダウンを始める。 ──頬にキスをされた。 その事実は私に受けとめられるものではなく、ただただ硬直して彼を見つめるしかなかった。 「じゃ、またね。楽しみにしてるから」 呆然としながら、何とか辛うじて降りた車の外。 車が発進したのを見届けると、私はその場にへたりこむ。 (これは……夢?) あの王子とデートをして……更に頬にキスまでされて。 でも頬の感触が消えてくれなくて──冷たい風に吹かれている中、その部分だけがいつまでも熱を持っているように、ずっと消えてくれることはなかった。
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