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私が玄関の扉を開けた瞬間──私は思わず固まった。そこに居たのはあの知り合いの人ではない。
さっき見ていたあの寝顔と、瓜二つの顔がそこにあるからだ。
「探したよ」
懐かしい彼の声。
私の細胞の一つ一つに、染み付いている、その声。
心臓が波打つように、ばくばく音を立てる。
「……調べたのね」
そう言うと彼はふっと鼻で笑う。「時間がかかったよ」と。
「佑依は?」
何も知らないと思っていた彼から『佑依』という言葉が出てくる。
それはもうとっくに……佑依のことも調べ上げられてるということだ。
「何も話すことはない。帰って」
私は玄関の扉を勢いよく閉める。しかし間一髪、彼の足に阻まれる。
「帰るわけないだろ」
つま先で蹴りあげられるように開く扉。思わずドアノブから手が滑り落ちるように離れてしまう。
「ダメ!帰って!!」
体を張って彼を押し出すが、もろとも動かない。ここは助けを呼ぶべきか。思いっきり叫ぼうとした──その瞬間だった。
「史織ちゃん?どうしたの?」
マンションの廊下に立つ、抱っこ紐で子供を抱えている一人の女性。
「紀葉ちゃん……」
紀葉ちゃんは私と彼を交互に何度も見返した後──ぱあぁっとまるで花が咲くような輝く瞳で、私のもとに歩いてくる。
「パパが帰ってきたんだ!」
そりゃ確かに……この彼の顔で、佑依と血縁者ではないと言うのには無理がある。
「あの……さ……」
「はい、連絡をしていなかったので、それで少々喧嘩を」
私が口を挟むまもなく、彼はペラペラと喋り続ける。
「でも酷くないですか?『掃除してないから!』って入れて貰えないんですよ?」
「史織ちゃん、まぁ気持ちはわかるけどぉ……せっかく地球の裏側から帰ってきたんでしょ?お疲れでしょうに…」
チクチクと刺すような視線を送る二人。
この時初めて、深入りを避けるためにみんなに付いていた嘘は、完全に失敗してしまった。
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