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紀葉ちゃんはリュックのポケットから私の忘れていった水筒を取り出す。
「史織ちゃん、今日は家族でゆっくりしなよ」そう言って私に水筒を差し出す。
何も知らない彼女は、ただ純粋に私達のことを思って言っている。
嘘を付いている罪悪感から、思わず「ごめんね」という言葉が漏れた。
「その言葉は、旦那さんに言ってあげなさいよ、ね?」
そうニコニコしている紀葉ちゃん。
そして彼女によって、彼と私は玄関の扉の内側に押し入られる。
「じゃあね、ごゆっくり」
手を振って扉はバタンと閉められる。
当然玄関には、私と彼の二人だけ。
私は彼女の人懐っこい姿が好きで、尊敬をしていた。まさかそれが、ここで仇となるとは思ってもみなかった。
「ちょっと!!」
私が阻止する間もなく、彼は玄関から家の中に押し入る。
「ここで帰ったら……旦那を追い返した鬼嫁になるね?いいの?」
有無を言わせぬ態度で、止める私を振り切って廊下を進む。
廊下の先、リビングはがらんとしている。
一度くるっと見回した彼は寝室への引戸を見つけると、一目散にそちらの方向へ。
少し開いた隙間からは、佑依の寝ている姿が見える。
「ちょっと……」
「大丈夫大丈夫」
彼はゆっくりと引戸を開けて、佑依の元へ。
タオルケットの隙間にある寝顔を覗き込んでは、頬を緩めている。
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