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彼は玄関で佑依に靴をはかせて、そのまま抱っこで家を出る。私も後に続いた。
「ねえ、ベビーカーは?」
彼は素だっこのまま佑依を連れていっている。佑依は長時間一人で歩けないので、移動はベビーカーでないと大変なはず。
「ああ、車だから大丈夫」
「車?!」
「うん、さっき届いたんだ」
そしてマンションを出て、角の曲がった所にあるコインパーキングまで行く。
そしてそこにあったのは──いつかの記憶にあるBMW。彼の車だ。
大切に乗っているらしく、ほとんどあの頃と見た目は変わっていない。
彼はピっと車のロックを解除して、後部座席のドアを開ける。するとそこには、既にセットされてあるチャイルドシートがあった。
彼は佑依を乗せると、何やら少し苦戦しながらもシートのベルトを固定している。
「どうしても三人で、この車で出掛けたかったんだ」
「あの、一体どこに行く気なの?」
そう問いかけると、彼は振り返り、こう答えた。
「海を見に行こうよ」
それを聞いて……やっぱり知っていたんだな、って。
そんな当たり前のことを、今更ながら思っていた。
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