海辺にて

3/8
121人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
彼は玄関で佑依に靴をはかせて、そのまま抱っこで家を出る。私も後に続いた。 「ねえ、ベビーカーは?」 彼は素だっこのまま佑依を連れていっている。佑依は長時間一人で歩けないので、移動はベビーカーでないと大変なはず。 「ああ、車だから大丈夫」 「車?!」 「うん、さっき届いたんだ」 そしてマンションを出て、角の曲がった所にあるコインパーキングまで行く。 そしてそこにあったのは──いつかの記憶にあるBMW。彼の車だ。 大切に乗っているらしく、ほとんどあの頃と見た目は変わっていない。 彼はピっと車のロックを解除して、後部座席のドアを開ける。するとそこには、既にセットされてあるチャイルドシートがあった。 彼は佑依を乗せると、何やら少し苦戦しながらもシートのベルトを固定している。 「どうしても三人で、この車で出掛けたかったんだ」 「あの、一体どこに行く気なの?」 そう問いかけると、彼は振り返り、こう答えた。 「海を見に行こうよ」 それを聞いて……やっぱり知っていたんだな、って。 そんな当たり前のことを、今更ながら思っていた。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!