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── その場所は、海を望む場所にある。
車を走らせること三十分。私達は、隣街の片隅にやってきた。
デコボコとした砂利が続く道。その先にある、同じくデコボコした地面の駐車場に車が止まった。
車が止まり、私は佑依のベルトを外す。着ける時と違い、外すのは簡単だ。
そして佑依と一緒に、車の外に出た。
外に出た瞬間──サワッと大きな風が吹く。
潮の匂いが、駆け抜けて行った。
住む街よりも色濃い匂いの潮風。そして遠くからは、微かに波の音が聞こえてきている。
ここの駐車場の裏は、砂浜が広がる海になっている。
私は佑依を抱えて手洗い場まで行こうとするが、彼が私の先を行く。
そして辺りを伺うことなく、真っ先に桶置き場に行く。当たり前のように手にすると、手洗い場の井戸の水を汲み始めた。
「……来たこと、あるんだね」
そう問いかけると、彼は当たり前のように言う。
「年に三回来てるよ」と。
そして桶に水がたまると、私達はあの場所まで歩いていく。
ジャリ、という小石を踏む音が響く中で、チャポンと桶に溜まった水の音も響かせながら。
その中で、再び彼が口を開いた。
「誕生日と命日の両方来てるよ。いつも史織は午前の早い時間だったから、そのあとに。でも姿を消してからは、一度も来てないよね」
そう問いかけられて、静かに頷く。
「ええだって……絶対あなた達に見つかると思ったんだもの」
そう言うと、苦笑いしながら「そうだよね」と呟くように言っていた。
そして沢山の石の山がそびえ立つ中──とある小さな石碑の前で、足を止めた。
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