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彼は抱っこされている佑依を見つめながら、こう言った。
「佑依、じいじとばあばだよー」
──佑依がこの意味を理解する日はいつだろうか。
ここの石碑は私達両親も眠る、先祖代々のお墓だ。
潮風に晒されているから劣化は早く、随分と風化したように見える。
私が二年間一度も訪れなかった場所。
それでも、きちんと管理されている跡がある。
そびえ立つ雑草も無いし、何十もの層になった埃を被っているわけではない。
それは二年の間、誰もここを訪れなかったわけではないという証拠だろう。
もう遠縁の交流のない親戚ですらたまにしか来ない場所だから……きっと彼か、彼らの関係者か。
彼は桶の水を、柄杓で掬って墓石にかけている。
ただ水が伝う様子を眺めては、ぼんやりと想いを巡らせていた。
──妊娠が発覚した時、私は海外に居た。
日本を離れ、ビザ無しで長期滞在できる国を転々とする予定で、その中で身の振りを考えようと思っていた。
その中で妊娠が発覚し、激しく動揺した。
心当たりは……一つしか無かったから。
──正直佑依を産むことついては、最後まで悩み、苦しんだ。
佑依は決して、愛し合っている夫婦のもとに授かった子ではない。
一時の快楽の中から生まれた、望まれていない子供だ。
そんな子供を産んで、ちゃんと育てることができるのか。
そんな子供を愛することができるのか。
──そして何より、流れている『血』を許すことができるのか。
混濁とした思いの中で最後まで悩み、苦しんだ。
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