海辺にて

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──でもきっと私は、疲弊していたんだと思う。 私はずっとひとりぼっちで……これからも一人で生きて行かなければいけない。 そんな当たり前の事実に、疲れきり、絶望していたんだと思う。 ──せめて、ずっと側にいてくれる人が居れば……。 そんなエゴで産むことを決意した。 でも……ちゃんと愛せるという自信がなかった。 だから助けを求めるように、あの街に移り住んだ。 あまりここから近いと見つかる可能性があるから、少し離れた街。 でも、ここからの潮風が届くから。 風に乗って、ここの空気を運んでくるから。 いざとなれば両親が助けてくれる。そんな気がしていた。 ──でもそんな思いは、拍子抜けするほど杞憂に終わった。 いざ産まれてみると、愛せないんじゃないか。そんな想いは微塵も感じさせないぐらいの、愛おしさで溢れる感情だけが生まれていた。 佑依と過ごす毎日。 それはとても、とても幸せに満ち溢れている毎日でしかなかった。 ──そして彼にそっくりな顔。 見る度に思い出すのは、憎悪の感情ではなくて……彼に愛されていると思って居た頃の私。 いつも溢れんばかりの愛情を注いでくれていた、彼の姿だった。 ──だから佑依を、ここまで育ててこれた。 産む前の気持ちはどこかに行き、びっくりするほど穏やかで、幸せな毎日が続いていた。 だからこそ……油断が生まれてしまったのだと。 (きっと、長く居すぎてしまったんだな) 喉元まで出たその言葉は、呑み込みお腹の奥底まで仕舞っておくことにした。 「お父さん、お母さん、ごめんね。子供が産まれました。佑依という名前です」 両親の顔を思い浮かべながら、墓前に手を会わせる。 ただただ目からは、涙が溢れて止まらなかった。
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