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駐車場の隅にある階段を下りれば、砂浜に出ることができる。
時刻はもう夕暮れ時。海が夕日に照らされて、真っ赤に染まっている。
誰も居ない季節外れの砂浜。ひび割れた古いコンクリートの階段を下りて、私達は波打ち際を目指して歩いて行く。
「佑依?歩く?」
佑依は地面を覗くように見て、足をバタバタさせている。
初めて見る砂浜が珍しいのだろうか。
佑依をゆっくり砂浜に下ろすと、石化したように固まって動かない。
初めて靴で地面に下ろしたときもこんなんだったな、と思い出しながら吹き出して笑ってしまった。
「佑依、行こっか」
そして佑依の右手を取って歩こうとする。
しかし佑依は動かずに──しまいには、その場にしゃがんでしまう。
「あー汚れちゃう…」
「じゃあ反対はパパのお手手と繋ごっか?」
そして彼が佑依の反対の手を取った。佑依は砂を眺めながらも歩きだし、そのまま三人で並んで砂浜を歩いて行く。
真剣に歩く佑依に、二人で微笑み合いながら。
──この光景に、涙が出そうになる。
いつかの幸せな家族の光景。
今、その中に私がいる。
両親二人に挟まれて、手を繋いで歩く私。
三人で笑い合っていた、あの頃。
幸せだったあの頃のこと。
それと同じ光景が、今、目の前にある。
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