まるで氷のようで──過去(佑一朗)

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だから最期に耳元で、こう囁いてやった。 「早くくたばれ」と。 それから数時間後、ようやく祖父は息を引き取った。 だからと言って……全てがゼロになるわけではない。 父はその後何度も何度も、史織と会おうとした。 ただその度に突き返されて、結局直接会って話をするという機会を得ることができなかった。只でさえ、事故を目撃したトラウマ、また騒ぎ立てるマスコミの餌食となって精神が弱りきっていたのだから当然だ。 結局二人の葬儀への出席すらも認められず、式場の敷地に入ることすら叶わなかった。 俺達は数名のマスコミと共に、敷地の外から柵越しにその様子を見守っていた。 ──その様子は、今でも目に焼き付いている。 火葬場に併設された会場から、火葬場に続く、長い通路。 二つの棺を先頭に、並んで歩く人の列。 その列の一番前を歩く彼女。 ─その姿は、まるで氷のようだった。 真夏に(そび)え立つ、透明な氷の柱。 太陽に照されて、キラキラと美しいぐらいに光を放っていて……。 しっかりと丈夫に立っているように見えて、すぐに溶けて消えてしまいそうな程、とても脆く、儚い。そんな姿だった。 それがいつまでもいつまでも……心に焼き付いて、離してくれなかった。
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