まるで氷のようで──過去(佑一朗)

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──ただこれは、史織に降りかかる不幸の序章にすぎなかった。 史織にはその後、こちらから慰謝料が支払われることになった。 その金額は正直な話──もはや膨大とも言える金額だった。 元々史織側、つまり史織の親の会社が手配した弁護側から は、色々と上乗せして"土地の相続に必要な金銭"の要求があった。 都心の一等地にある、豪邸とも言える史織の家。 それの相続税は、郊外の新築一軒家を購入するよりも多い金額だった。相続人が未成年だったことを差し引いてもだ。 父はそれを呑み込み──更に今後十年の固定資産税を上乗せした金額を彼女に支払った。 正直な話、あの家は維持費だけでもかなりの額を持って行かれてしまう。固定資産税だけでも、軽く新卒の年収を越えるぐらいは。 だから今後も彼女が住み続けられるように、こちらは最大限考慮した金額を支払ったつもりだ。 ──それは腐りきった会社を傾かせるには、十分な金額だった。 そしてあっという間に、会社は転げ落ちていく。 そしてもう一つ、この事故で会社にとって重大なものも損失していた。 それは──"数々の改竄を隠蔽するための資料" それが祖父と共に、焼け落ちていた。
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