憧れのあなた──過去

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憧れのあなた──過去

私が彼──小林佑一朗と出会ったのは、四年以上前のこと。 脚本によっては、絶賛される映画にも、三流と評価の深夜ドラマにもなり得るような、ごくありふれた出会いだった。 私は当時、とあるイベント制作会社に勤めていた。 街中や催事場などで販促のイベントなどを手掛ける会社。三十人にも満たない規模の小さな会社だったが、やりがいのある充実した仕事内容。それに加えて上下関係には厳しいが優しい先輩に、慕ってくれる人懐っこい後輩達……つまり人間関係も至って良好で、文句の付け所のない会社だった。 私はそこで制作の表に立つ華やかな仕事……とは無縁の、裏方の事務として勤務していた。 一応『総務』という区切りではあったが、そこはまぁ小さい会社ならではのフットワークの軽さが試されるという感じで。事務用品やOA機器の管理や経理などの、通常の総務の仕事というものも勿論あったけれど、それよりも制作の人たちのサポートというのが実質の仕事だった。 制作の人たちが下書きしたプレゼン資料の制作、警察や役所などの許可取り、必要な備品の発注や予算の調整。その全てを私含めて会社一丸となって行っていた。 特に私の資料作成についての評判は高く、見やすい分かりやすい説得しやすいと先輩達からは三拍子揃った評判で。 『いつも仕事が丁寧ですごく助かる』と何とも嬉しい言葉をかけられることが多かった。 それはずっと……あの時から、なるべく目立たずに堅実に生きていこう。そう決めた私にとってはすごく嬉しい誉め言葉で。 見た目だけ、肩書きだけではなく、ちゃんと真面目に取り組んだ姿勢を評価される、そういうことが堪らなく嬉しかったのだ。
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