まるで氷のようで──過去(佑一朗)

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それが判明してからは、激動のような日々だった。父は寝る間もなく、会社の隅々までの精査に乗り出してた。 そして改竄に協力した者全てを洗い出し、尋問し、追い出した。同時並行で業績悪化が激しい部門も切り捨てて行った。 まぁそのほとんど……いや全ては祖父の側近で、甘い蜜を吸わせていた人間であったが。 何となくそれを見ながら、こんなことを思っていた。 あぁ、父はこれがしたかったのではないか、と。 邪魔者を切り捨てる手段の一つに"祖父の賠償金を支払ったことによる経営悪化"という口実を使いたかったのではないかと。そんな事を思うほどだった。 その後も切り捨てた反動でどんどんど会社は傾いていく。 どん底に立たされた父であったが、なぜか今までに見たこともないぐらいの前向きだった。 「失ったお金は、また稼げばいい」と前向きに改革に取り組んでいた。 そのおかげか、反動がおさまる頃には倒産してもおかしくはなかった会社の経営は、徐々にではあるが回復していった。 父は『ほれみろ』と得意気にしていたが。こうなることを予想していたように。 ただ一つの計算外。 それは──追い出された社員の矛先が、史織に向かっていったことだった。
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