憧れのあなた──過去

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──そんなある日、彼が会社にやってきた。 午後の昼休みが終わり、昼礼の直前。 わざわざ社長が、まだ休憩中の社内の人間までも全員を集めて、彼を紹介した。 「みなさんに紹介します、今度からうちの担当になった、光信堂の小林君です」 光信堂とは、うちの最重要取引先でもある大規模な広告会社。少なくともうちの会社は月に一、二度は光信堂の案件を手掛けているレベルの濃い付き合いをしている。 そう言えば、と彼を見ながら先月のことを思い返す。前の光信堂の担当者と一緒にちらっと彼を見かけた気がするのだ。 わりと女子の間では噂になっていたようで『何かかっこいい人が居る!』『あれかな?メーカーの人連れてきたんじゃない?』なんて話が飛び交うのを聞いていた。 そんな噂をしていた人物がうちの担当になるということで、もうその場の女子達が一斉に色めき立つのは当たり前だった。 なんせ彼は目鼻立ちがはっきりとしている、いわゆる『かっこいい』と言われる部類の顔立ちをしている。無駄な贅肉がひとつも付いていない、かと言えば線が細すぎない程度のしなやかな筋肉の付いた体。そして私が背伸びをしても届かない、見上げてしまうほどの高身長……それは出来すぎた物語に出てくるヒーローそのものであったからだ。 「みなさん、これからよろしくお願いします」 そう頭を下げた彼は、一人一人に握手をして回る。 当然私の所にも回ってきて、前の人と同じように右手を差し出す。彼もまるで流れ作業のように「よろしくお願いします」と言いながらその手を握った。 そんなありふれたきっかけ。ありふれた出会い。 ──ここから徐々に歯車が回り出していく。
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