原因

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原因

眠った花綵をお姫様抱っこして、花綵の家まで連れて行く。 ピンポーン 俺が大嫌いな、人の来訪を伝えるベルが鳴る。 『はーい…………え、のん!?』 すぐに通話が切れて、目の前の門が開いた。 玄関まで続く石畳の道を進むと、大きな黒い扉が俺を出迎える。 いつ来てもデカいな、この家。 扉が勢いよく開いて、中から花綵の父母と思われる人物の顔が覗いた。 「え、どなた? イケメンじゃない。こんな時間にありがとねぇ」 花綵母が答える間もないくらいの勢いで喋りだす。 「静江(しずえ)、困っているから止まりなさい」 花綵父に言われて、花綵母はやっと止まる。 「のんさんと同じクラスの深田白澄です」 俺は当たり障りのない笑みを浮かべてお辞儀をする。 「あらあら、彼氏?」 「いいえ。俺なんかじゃのんさんには到底合いませんよ。学園のマドンナですから」 本当に、花綵母の言う通りだったらよかったのに。 「ところで、何故のんさんはこんな真夜中に外にいたんですか? しかも、半袖で上着も着ずに」 俺は問う。 「私達が喧嘩ばかりしてしまうから逃げたのよ。この子、争いごとは昔から苦手でね……」 花綵母は心の底から申し訳ないといった顔で頭を下げる。 果たして、父母が喧嘩しただけであれ程泣くのだろうか。 だが、この二人が原因で彼女が傷付いていることだけは確かだ。 これを機に、彼女にもっと近付くことが出来るだろうか。 俺は、彼女のためだけにずっと生きてきたんだから。 命を放り出そうと思ったことなんていくらでもある。 別に、イジメられていたわけではない。 ただ漠然と、何のために生きているのか、と思っただけだ。 何もないのに生きる必要はないよね、って。 でも、中3のあの日、彼女と出会って俺は変わった。 彼女に見合う男になるために、明るく振る舞った。 彼女が傷付くのは許されない。 その原因は、徹底的に摘み取って消していく。 例え、彼女がそれを拒んでも。 「では、のんさんにはまた明日、とお伝え下さい」 一通りの会話を終えると、俺は花綵家をあとにした。 彼女が何不自由なく暮らせる居場所を、俺は作りたい。 そのためだけにずっと生きていこう。 永遠に、彼女を置いていくことなく、置いていかれることなく、ずっとで……………。
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