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⑤何度も繰り返す輪廻
逃げられないのだと悟った。
5度目のリープでは海外旅行にまで行ったけれど、問題が起きたと言って連れ戻されてしまい、事故に巻き込まれる。
元となる要因も原因も、杳としてつかめない。
何度も繰り返すその3年間は、些細な変化あっても基本的には同じ出来事が起きる。
都内で大きな事故があったとか。
どこどこの首相が当選したとか。
あのスポーツ選手が優勝しただとか。
あら、だったら競馬とか当たる?と思ったけれど、どうやらうまくできているらしい。チェックしておいて次のリープで買ってみたけれど、なぜだか騎手が落馬してしまいその馬券は紙くずになっていた。
私が自分のために過去に大きな手を加えても、未来は変わらないということか。
仮に私がアラブの王様と結婚しても、未来は変わらない。
仮に私が人を殺して収監されても、あの事故に巻き込まれるのだろう。
正直疲れた。10度目のリープをすると、私はすぐに研究員を辞めた。
変わらないなら、今更ながらやりたいことがあったと思い出したのだ。
過去も未来も変えられないなら、自由に生きたい。
3年戻る×10度では精神年齢的には30年も生きているけれど、肉体は若いまま、若さは武器だ。
小さいころの頃は歌手になりたかった。
小学生の頃は花屋さん。
中学生の時には、学校の先生に憧れた。
高校受験の時に薬や臨床、病理に興味を持ち始めてそれに特化した学校に進み、その仕事に就いていた。
そんな夢を思い出し、実現してみる。
さすがに歌手になるのは無理かな。
花屋やコンビニ店員などのバイトなら、なんとかできる。
したことがない仕事は楽しかった。
一生懸命働いてもお金も残らない、そしてどうせ3年後には死ぬと、自由奔放に生きた。
そうして出会いがあった。カフェでアルバイトをしていると、常連のようにやってくるサラリーマンがいたのだ。
初めのうちはこんにちはと挨拶するだけの客と店員だった、それが互いに事務的ではなくなり、少しづつ時候の挨拶が交じり、テレビや歌手の話題になって、連絡先を交換するまでになった。
森山海翔、2歳年上のナイスガイ。
何十年の生きてきて、初めての恋人。
この人と結婚とか、出産なんかも、できるだろうか。
それは無責任なのかな、子どもが小さいうちに死んでしまうことは判り切っている、タイムリープする女の元に生まれた子は、かわいそうではないだろうか。
でも私が死んだ後も海翔とその子が生きていてくれたら──そんな淡い期待は、持たないようにした。
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