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海翔との逢瀬は楽しくて幸せだった。
そして運命の9月21日、私はラボの元同僚に呼ばれる。
ああ、やはり運命は変らないのだ。
私は覚悟を決めてラボへ向かう。
死は何度繰り返しても慣れない、ただ苦しくないのはありがたいかな。
そして3年後に戻り、カフェのバイトを始める。
常連の海翔とはすぐに再会できた、前回は親しくなるまで時間がかかったけれど、どうせなら一日でも長くそばにいたいと私はすぐにアプローチをする。
海翔もそれを受け入れてくれた、幸せな日々、でもそれは3年後に終わりを告げる。
何度も繰り返す出会いと別れ。私はそれも楽しむ術を見つける。
時にうっとうしいほど甘える女性になったり、時にツンデレになったり、時にヤンデレになってみたり。
それでも海翔は私を愛してくれる、どの私も可愛いと言ってくれる。
こんな人となら一生を共にいられる──私はある意味そうなんだけど、年老いた海翔と添い遂げたいと思うのに、運命はそれを許してくれない。
9月21日は容赦なくやってくる。
死んで生まれ変わって。
逃れられない運命を繰り返すだけ。
そして6度目の再会の時、少しの変化が起こる。
「友達が医療機器メーカーに勤めてて」
ふんふん、そんな話、初めて聞いた。
「そいつが関わった新しい機械が納品されて、初めて本格運用されるってのが嬉しいから、よかったら見に来ないかって」
「え、そんなの見に行っていいの?」
「さあ、いいか悪いかは知らないけど。あかねがそのラボに勤めてたって言ったら、是非来てほしいって」
「んー」
退職して3年近く、もうその辺の知識も興味も薄くなっているけれど。
「確かにちょっと覗いてみたいかも」
関心はなきにしもあらず。
「いつ?」
聞けば、海翔は笑顔で答える。
「9月21日!」
ああ、やはり逃れらない運命なのだ。
「──そっか。じゃあ、私だけ行く。海翔は来ないで」
あの爆発にあなたを巻き込みたくない。
「えー行くよー。友達が自慢した仕事の成果も見たいし」
何度か話した、じゃあ私は行かないとも言ったけれど海翔は行くと言って聞かない。
一番最初の爆発の時にいなかった海翔がいる、この変化に爆発は起きないのか──とんでもない、ものの見事に吹き飛ばされた。爆発の原因は海翔の友人が開発したものではない、まったく別の場所でだった。
ああ、いったいなんなのよ。
遠のく意識の中で海翔を探した、見ただけで判る、あなたは既に息絶えている──一緒に死ねた、不謹慎にもそんなことが少し嬉しかった。
そして3年後に戻る。
カフェでバイトをして海翔が来るのを待った。タイムリープがありがたいと思ったのは初めてだった、最愛の人をもう一度この腕に抱けるのだから。
そしてひとつの可能性に賭けた。海翔はあの事故での『初めての死亡者』になるはずだ。もしかしたら海翔もタイムリープに取り込まれたかも──でも、その期待は簡単に裏切られた。
接客する私にあなたは気づかない、その態度は赤の他人だった。
この奇妙な輪廻に巻き込まれたのは、真実、私だけ──またあなたと、1から恋を始めよう。
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