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☆
今回もすぐにラボを辞めて、カフェでアルバイトを始める、いつものように海翔はやってきた。
注文カウンターに近づく顔を見ながら心の中でお礼を言っていた。だって爆発の時、身を挺して守ってくれたんだもの。それだけでかっこよかった。
海翔も亡くなってしまう未来もあるということだ。
もしこれがパラレルワールドだとしたら、いったいいくつあるんだろう? 私が死んでしまった後の未来は無数があるんだとしたら、なんか生きる気力無くすわね。ううん、むしろ未来は無限だと捉えるべきか。
「いらっしゃいませ」
私は笑顔で接客する、海翔は事務的に注文する。
「アイスコーヒーをひとつください」
「え?」
思わず声が出た、海翔が怪訝そうに私を見上げる。
その目は他人を見る目──違うの、海翔はいつもカフェオレを頼むから、驚いて……。
「アイスコーヒーをひとつ、お願いします」
聞こえなかったのかと思われたのか、注文を繰り返され、私は慌てて注文を通した。
確かにこれまでにも小さな変化はあったけれど。
これもきっと、そのひとつか。
☆
そしてこのリープでも私からアプローチをして海翔と恋人になれた。
海翔にしてみれば最初の「え?」がかなり腹に立っていたみたい、でもそれで印象に残って、私が親し気に声をかければすぐに打ち解けてもらえた。
そして今回も幸せな時間は、終わりを告げる。
「今度、あかねが働いていたラボに見学に行くことになったんだ」
見学? あそこ、そんなことしてたっけ?
「俺、今、サッカーの練習見てるじゃん?」
時々だけれど、週末、友人がやっているサッカークラブの手伝いをしているのだ、それも今生で初めてのこと。
「その子たち連れて行くんだ。あかね、元職員だろ、一緒に行かね? 懐かしいだろ」
誘われてまさかと思いながら聞いていた。
「いつ?」
答えは当然、
「9月21日」
ああ、またあの爆発があるのか。待って、子どもたちも巻き込まれる?
「──どうしても行かないとだめなの?」
「年に何回かのレクレーションで、子どもたちも楽しみにしてる」
確かに。映画を見に行ったり、工場見学にもよく行っている。
「別の日にしたほうが」
「んー、先方の指定日なんだよな」
「でも、平日でしょ。子どもたち、行けなくない?」
「それが所属してる子の多くが通ってる小学校で代休なんだって、だから半分くらいは行けるから、ちょうどいいかなって」
そんな馬鹿な──。
「ラボなんて、何にもないわよ」
「そうそう入れる場所じゃないし、科学とか化学とかに興味ある子もいるから、喜んでるよ」
「──でも」
「どうしたの、あかね。そんなに嫌なの?」
「あの──」
また話そうか、私がタイムリープしていることを──でもこの場で言えば馬鹿なことをって言われそう。断る言い訳にしてはひどいレベルだ。
爆発するなんて言ったら、私が爆弾犯として捕まったりして──そうなればまた違う未来があるだろうか、そう思いながらも海翔に犯罪者として疑われるのは嫌だった。
「──ううん、ごめん、いい。私も行く」
爆発する時間もいつも同じだ、その時間だけは子どもたちは別室に行ってもらおう。爆発の規模はその時々で変わるから、どうなるか判らないけれど。
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