①202×年、最初の事故

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①202×年、最初の事故

最後に聞こえたのは男女の悲鳴と、鳴り響くアラーム。 ラボの爆発に巻き込まれてしまった、いったいなにが爆発したのか、それすら判らない。 全身に痛みはあるのに痛いとは思わなかった。 主な痛みは打撲だ、爆風で壁に叩きつけられた。 致命傷は腹を裂いた破片である、こちらは意外と痛みは感じない。 溢れ出る血を見ても冷静だった、今すぐ止血してももう無理だと思ったのは、内臓もいくつかもっていかれたから。 少しづつ遠のく意識に死を実感する。 思いの他、怖くなかった。 ただ短い人生が惜しかった。 まだ29歳、恋もしていない。 ずっと勉強と研究に没頭していた。 それはそれで楽しい人生だったけれど。 もっとなにかできたかもとぼんやり思った。 思っていても意識は徐々に遠のいていく。 死因としては出血多量かな──眠るように死ねるならいいかもしれない。 家族に最期の別れくらいしたいな、そんなことを思うほどゆっくりした死だった。 先日買ったばかりのスマートフォンは白衣のポケットに入っている、それを使って連絡をしようかと思ったけれど、もう手を動かすこともできなかった。 私、須藤あかねは、こうして人生を終えた。
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